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6.夜の願い
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「雨依、学校どうだった?」
あれから、俺と雨依はいつも通り過ごしている。俺は普段通り仕事へ行き、雨依も毎日学校へ真面目に通っている。
「今日はテストがありました。」
「そうか。どうだった?」
「国語が98点でした。」
「おおっ、すげーじゃねえか!俺も国語は得意な方だったんだ」
「いいえ、ひとつミスをしています。国語さえミスしなければ全教科満点だったのですが…」
「……我ながらよく出来た子だよお前は。」
それから俺は雨依のひとつだけ間違えたところを見る、と言ってソファに座り机の上に雨依の解答用紙と問題用紙を広げながらうーんと唸る。
「何でこんなところで間違ったんだお前」
「遥にはその答えが理解出来ますか?」
雨依は俺の隣に腰を下ろしながら俺を見て問う。
「理解できるよ。筆者の気持ちを考察系は俺もそんなに得意じゃなかったけど、にしてもお前の解答はおかしすぎるだろ。」
「何故ですか?」
「戦争はもう二度と起こしてはならない、とこの筆者は最後の文にそう示している。それなのにお前の筆者の考察と来たら、戦争は良くないことではあるが、自らが生きる為には勝ち取るしかない命懸けの戦。結局殺さなければどちらかが生き残ることは不可能なのだ。…って」
「駄目ですか?」
「ダメに決まってるわっ!物騒な中学3年生だなお前は!」
「しかし、これは事実です。」
「それはそうかもしれないが…。だからと言って争いをして勝っても、また次の争いが生まれてしまう原因になるんだぞ。」
「それは仕方ないことかと。この世から争いが消えることは恐らく一生ないのですから。」
雨依は時折、シビアな現実をその綺麗な見た目で簡単に口にしてくる。まだ14のくせに、雨依は時折この世の全てを見透かしているかのような瞳をして俺を冷ややかにじっと見つめてくる時がある。
…本当に可愛げのない中学生だ。
「もういい、テスト用紙しまえよ」
「え?はい」
「まだ風呂に入るにも早いし、一緒にドーナツでも作るか?」
にこ、そう軽く笑みながら雨依を見る。すると雨依は顔を綻ばせてこちらに向かってきながらはい、と言った。
「おやすみ雨依」
「はい、おやすみなさい遥」
夜、雨依が自室のドアを開けて部屋に入ったのを見送って、俺も自分の部屋に入った。ベッドにごろんと寝転がって、俺は冴えた目を開けたまま暗闇の中に映る天井を見上げる。
最近雨依と引越しをして、元々住んでいた実家を出た。今住んでいるここは二人暮し用のマンションの一室である。
実家に住んでいた時は必要なかった家賃がいくらかプラスされて前よりお金が多く必要になったのが些かデメリットだが…仕方ない。
まだ雨依は中学生で、これから高校、大学もある。一応無駄遣いはあまりせず貯金をコツコツしてはいる方だと思うが、何分まだ今の会社に勤めて2年やっと経ったくらいだ。近頃の大卒の給料なんてたかが知れている。それに特に大企業というわけでもない…。
昔、俺が学生だった頃は、雨依とは母方の祖母の家で暮らしていた。というのも俺の両親は病気や事故で既に他界していた為だった。
自分のことを祖母に面倒をかけることすら恐縮だったのに雨依まで連れてきてしまった俺のことをその時祖母はどう思っていたのか分からなかったが、自分が雨依の面倒を見る、と必死に言うと祖母は置いてくれることを承諾してくれた。
そして俺が大学を出て就職をしたと同時に、俺は祖母の家を雨依を連れて、祖母に頭を下げてから出ていった。これ以上迷惑をかけてはいられなかったことからそれは当然のことであったが、しかしそれ以上に、俺が雨依とこうして2人きりで早く暮らしてみたかったのかもしれない。
…とはいうものの。
「えーと…今月の家賃に光熱費食費水道代、学費、雑貨…」
くそう、頭が痛い。先日は奮発して雨依を海に連れていって高級ホテルに泊まってしまったから、もうこれから先は当分あんな豪華な使い方は出来ないだろう。雨依への誕生日プレゼントだったし特に後悔はしていないが、少々奮発し過ぎたか…?
これから先は、ちまちま貯金しながら生活していくしかない、…か。ああそれに、引っ越し代でも大分費用がかさんだからな…。
〝どこにいる、…悪魔め!〟
「……」
〝彼らは僕達にとって敵である存在です。彼らは僕を殺そうとしていました。僕は正当防衛をしたまでです。〟
…雨依…
俺はお前がどんな存在であろうと、お前に対する愛情はこれからも変わらない。俺にとっては、雨依はたった1人の我が子であり、俺の生きる理由である。例えお前が悪魔だろうと俺はお前を連れてどこまでも逃げよう。
だけど雨依…頼むよ、もう誰一人殺さないでいてくれ…。
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