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地下闘技場-1
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「うわぁ、すごい人だ……ここが地下闘技場か」
客入りは満員。
男は都会に初めて来た田舎者のように、地下闘技場を落ち着きなく見回した。
βがこの世界の実権を握っているといっても、彼のように気弱な者もいる。
適当な席に座り、試合開始までステージを観察してみることにした。
コロッセウムのように円形に作られたステージは直径25mほどの広さだ。
そして3ヶ所に巨大なモニター。
客席は地面から3m以上高い位置に作られている。
リングがよく見えるように……というよりは、客席の安全を確保するためのようだ。
一通り観察したところでブザーが鳴り響く。
腕や足を鎖で繋がれた見目麗しい男性が20人ほど入場してくるのにあわせ、下卑た歓声が上がった。
「いいぞーα様ーッ!」
「こっち向けオラァ!」
「大金かけてんだからしっかり殺し合えよー!」
闘技場の上方から2人乗りのゴンドラが降りてくる。
ガスマスクをした男たちがマイクを持って叫ぶ
「お待たせ致しました! 只今よりラットバトルを開始いたします! 皆様お手元のガスマスクを速やかにご装着ください!」
客たちは事前に配られた無骨なガスマスクを一斉に装着した。
装着に手間取っていると、となりの中年男性が手伝ってくれる。
「気ぃつけろよ、奴らのフェロモンはβのおれたちにも多少は効くからな」
「ありがとうございます。あの、フェロモンってことはΩですか? 姿が見えませんが……」
「なんだい、おたく初めてかい。まあ見てなよ。このガスマスクのおかげでこれから始まる見世物を存分に楽しめるって寸法だ」
円の中にいるα男性達は、個別の檻に入れられて拘束されている。
所在なげな表情の者、俯いている者、悠然とかまえている者……様々だ。
すると次は、目隠しをされた巨大な箱が吊り上げられて登場した。
一体何が始まるんだ……。
「キターーッ!!」
「早く開けろー!」
下品な野次が次々と飛ぶ。
蒸気の噴出音とともに、箱を囲っていた隔壁がゆっくりと開いていく。
檻だ。
人1人がギリギリ通れない間隔の檻は、動物園のそれを思い起こさせた。
中にはぐったりとしている30人ほどの男性が囚われていた。
悩ましげな吐息が微かに聴こえてくる。
「最強のα様もこうなっちゃおしまいだよなァーッ!」
「ヒート中のΩ30人分のフェロモンをくらえオラァ!」
それを聞いてようやく理解した。彼らは発情期のΩなのだ。それも檻の中の全員が。
隔壁によって閉じ込められていた30人分のフェロモンが、瞬く間に拡散していく。
ガスマスク越しに、むせ返るような不思議な匂いが届き、場内に充満するのが分かる。
「こちらのガスマスクはガンマ製作所の特注品、なんとフェロモン80%カットを実現! なおかつフェロモンの匂いが楽しめる機能つき!
おみやげ売り場でも販売しております!」
「いいぞーガンマ製作所!」
「ちゃんと匂いだけ分かるぞ!!」
この盛り上がりようの意味がわからず、となりの中年男性にたずねた。
「この大量のフェロモンを直接受けたら、彼らはどうなるんですか……?」
ガスマスク越しなのに、なぜか笑ったのがわかった。
中年男性はすぐには答えず、あごをしゃくった。
リングの中にいるα達の様子が変貌していく。
目は血走り瞳孔が散大し、口角からは興奮により唾液が泡立っていく。
中には忘我の域に達し獣の如き雄叫びを上げる者もいる。
美しい男達が発狂する様を客は大喜びで観察している。
まるで祭りの愉快な出し物を見ているかのように。
「な……なんなんだ、これは」
「あれはラットってんだよ。α野郎がΩのフェロモンに過剰に反応すると、ああやってイカれちまうんだ」
「えぇ……」
「Ωをエサに、奴らを過強ラット状態にして戦わせるのがこの闘技場のウリなのさ」
「あのΩの人たちは?」
「あぁ、Ω狩りに遭ったどんくさい奴らさ。番から引き離されてバラバラになった奴らばっかりらしいぜ」
「……なんか、ちょっとかわいそうだな」
「ダッハッハ、何言ってんだよ! 最高の見世物じゃねえか。さあ試合が始まるぞ」
ハウリングのひどいアナウンスが流れてくる。
「第一試合は、ここまで5戦3勝の7番人気『赤目』対4番人気6戦4勝の『手長』! もう間も無く賭けを締め切ります」
どこまでも人間性を踏みにじる催しだ。こんなものを楽しめる奴は正気じゃない。
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