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図書室内に入ると、中は涼しくてとても快適だった。これなら廊下で待ってるよりついて来て正解だったかもな...と思う。
転校生くんは俺を中に引きずり込んだあとはすぐに手を離し、一人でスタスタと奥の棚と棚の間に消えていってしまった。取り残された俺は特に本などに興味はないため、広々とした空間でポツポツと空いている席に座ろうと目を遣る。
ふと、本日二度目の見慣れた頭を見つけた。春樹だ。
春樹がなにやら黙々とペンを走らせている。
「よっ。」
「....綾斗?」
相手の反応も見る前に左隣の席に腰を下ろす。そのまま春樹が一生懸命書いていたものを覗き込むと、どうやら何かの課題だったようだ。古典か...?
そんなことを思いながら目を細めていると、潜めた春樹の声が右上から降ってくる。
「お前が図書室に来るなんて、今日は雪でも降るのか?」
「ばーか転校生くんのお世話だよ。」
「...あぁ。」
俺が図書室に来ることなど滅多とないからだろう。春樹は驚いた様子でそう茶化してきたが、理由を聞いてすぐ納得したようで、またすぐペンをスラスラと走らせ始めた。
「そうだよな、お前が自分の意志でこんなところに来るわけないよな。」
「不真面目な人間で悪かったな。」
クスリと笑った春樹は「そのまま変わってくれるなよ」と言ってこちらを一瞥した。どうやら春樹は不真面目な俺が好きらしい。
課題に取り組む春樹の手元をボーッと眺めていると、ペンを走らせていた手がふと止まって今度は忙しなくペン回しを始めた。綺麗な手の上でくるくると器用に回るペンをまたボーッと眺めていると春樹が口を開いた。
「そういやお前あれからLINK開いてないの?」
「あー、先生にスマホ没収されちゃって。」
「はぁ?なにやってんだよ。」
「いや聞いてくれよ、」
呆れたように笑ってそう言う春樹に事の経緯を話すと、また「なにやってんだよ」と言われる。自分で思い返してみても、どうしようもないバカをやらかしたと思う。
「まぁ、それならいいんだ」と言って、春樹はまた課題を解き始めた。そこでふと気になっていたその課題について聞いてみると、どうやら自分のクラスにも少し前に同じ課題が出ていたことが判明した。
「今日俺んち来る?」
「ん。」
1秒の間もなくそう返事する俺に春樹は可笑しそうに小さく笑って、同じく「ん」と返した。
課題が出たときは春樹の家に行くのが当たり前になっていた。
課題をつい後回しにしてしまいがちな俺は、結局提出日に間に合わないまま出さないことが多くあり、それが原因で何度も先生に呼び出され怒られていた。そんなことを幾度と繰り返しているうち、たまたま職員室に用があって訪れた春樹にその場を見られた。
その日の帰り道、呼び出しを食らっていた理由を問われて説明すると、「これからは一緒にやるか?」と困ったような笑みを浮かべながらそう提案される。それからというもの、課題が出たときは大体決まって春樹の家に行くようになった。
あまり話していても邪魔になるだろうと思い、そのあとは口を噤み、春樹を眺めたり他に来てる奴らを眺めたり、大して実のない考え事をしたりした。
暫くして、椅子に寄りかかりながら目を瞑っていると「おい」と春樹に呼びかけられパチっと目を開ける。春樹の視線は俺の後ろに向いており、つられるように俺も頭を左に向けると、例の転校生くんがドアの前でこちらを伺うようにして立っていた。
「あ」と思ったときには転校生くんはぎこちなく視線を横にずらし、図書室を出て行ってしまった。
「わり、行くわ。」
春樹に会って完全にオフモードになっていた俺は案内をしている途中だということを忘れていた。転校初日の転校生くんを放ったらかしにするわけにはいかないだろう。慌てて立ち上がるとガタガタと大きな音が鳴り、痛い視線が突き刺さる。心の中で謝りながら「20分くらいで戻ってくる」と春樹に告げて転校生くんのあとを追った。
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