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「クソっ…!動け、よ!」
走り続けた脚がガクガクと痺れ始め、意識した途端にもうこれ以上は無理だと心が叫ぶ。
逃げないと。オレはあそこに戻りたくない。
今頃追手が迫っている頃だろうか。
振り向いたら足を止めたら終わりな気がして、拳を握り太ももを何度も何度も強く打って奮い立たせた。
つい一月前だった。
突如各地で襲撃が始まり、この世は恐怖に包まれた。
制圧された土地は誰一人として存在を許されず、全てを根絶やしにしたソレは人の形をしているけれどこの星の者ではないという。
誰も目的も分からぬまま次々と侵略されていった。
正直他人事だと思っていた山奥の村でひっそりと暮らしていたオレのもとに使者と名乗る二人組みが訪れたのが一昨日のことで。
ついて来いという言葉に躊躇したが、従わなければ村の者の命はないと言われれば選択肢は一つしかなかった。
この星で拠点にしている場所は村から程近い都市部で、そこに待ち受けていたのは陛下と呼ばれる見目美しい男だった。
なぜここへ連れてきたか問うと運命のツガイだからだと言う。
ひと目でαだと分かる男とは別に、オレはΩとしては不完全だった。
寵愛される対象であるはずの他のΩより明らかに劣っていた。顔の造りも身体も。
運命のツガイであれば即座に分かるといわれているのにオレには何も感じなかった。
だからこそ訳もわからず俺は逃げた。
何も分からずただじっとしているしかなかったオレにチャンスが訪れたのが昨日の晩。
身体を清めるからお供しますとしつこい侍女たちにオレの星ではそんな文化はないと喚き散らしていたら陛下と呼ばれるアイツが表れて離してあげなさいと目尻を下げて命じた。
いくら微笑まれようと絆されてやるものか。
ようやく一人になれる時がきた。
脱衣しないまま浴場に入ると狙い通り換気用の小窓がひとつ。これでアイツの顔も見納めだ。
じゃあな、一つ残しその場を後にした。
もうそろそろ村が近い頃だろうがオレの限界も近い。
程近いと言えども人の脚では都市部から村まで何時間もかかる。
よく知りもしないαのツガイなんて死んでも御免だ。
一生添い遂げず生を終えると思っていた。
いつか項を噛まれ奴の子を孕むというのか。考えただけでもゾッとする。
あともう少し、もう少しだけ歩みを進めれば村に着くはずだ。この山と共に育ってきたんだ、この道を真っ直ぐ進めばもうすぐだ。
目の前の空も明るい、夜明けがすぐそこまで来ている。
オレを動かすのはもうただ気力だけだった。
村の皆は無事だろうか。
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