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竜1
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それは、赤の王が天ヶ谷鏡哉と出逢う、十年ほど前の話。
彼がまだ王ではなかった頃に経験した、稀有な出来事の話。
鍛え抜かれた身体を傭兵の服に包んだ男は、単身深い森を歩いていた。うなじを覆う程度に伸ばされたその髪は、ここ帝国領土においては珍しい赤銅で、その瞳も稀有な、炎を溶かし込んだような金色をしている。
彼の名は、ロステアール・クレウ・グランダ。グランデル王立騎士団第一部隊の副隊長である。
齢十八の彼は、その実力だけならば隊長をも凌ぎ、そう遠くない未来に騎士団長にも並ぶだろうと言われているが、どうにも団を抜け出して放浪する悪癖があり、そのせいでなかなか出世できないでいる。尤も本人に出世欲はなく、また周りも、母が平民であるとは言え王の息子なのだから、と自由にさせているため、特に強く咎められることはなかった。
唯一の問題があるとすれば、ロステアールを強く慕っている従兄弟のレクシリアがこういった放浪によくついてくるので、二人纏めてレクシリアの父であるロンター公にこっぴどく叱られてしまう点だろうか。それはそうだ。庶子故に王位継承権を持たないロステアールと違い、レクシリアはロンター家の次期当主である。そんな彼を引き連れて放浪すれば、怒られるに決まっている。
だが、今回は大丈夫だ。何故ならば、普段なら絶対についてくるレクシリアは、どうしても外せないロンター家主催の行事の方に出席しているからである。その時期に旅に出たことに関しては、レクシリアから相当の恨み言を言われたが、そこはまあ、勘弁して貰うしかない。
十二歳の頃から様々な地を自由に巡ってきたロステアールだったが、ここ最近はこうして帝国領土に来ることが多かった。
レクシリア以外の誰かに言ったことはないが、ここのところ帝国の動きが妙なのだ。それをいち早く察知したロステアールは、個人的に帝国に赴き、こうして隠れて調査しているのだが、なかなかその全貌を掴むことができずにいる。
いくら彼がグランデル国王の息子であるとは言え、一部隊の副団長に過ぎない男一人では、何事にも限界というものがある。結局今のところは、帝国の中枢で何か巨大な儀式のようなものが行われようとしている、という噂を掴んだ程度の成果しか挙げられていなかった。
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