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竜3
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これまでに感じたことのない気配だ。ロステアールにはその正体が検討もつかなかったが、ただそれが圧倒的な存在感を放っていることだけは判った。
次に自分の取るべき行動に迷ったのは、一瞬。ロステアールは気配の濃い方へと歩みを進めた。こういうときに感情がないのは便利だと、彼は思う。もし自分に正しく感情があれば、あまりの恐怖に逃げ出していたところだろう。そう思うほどには、気配の先にいるだろう何かは脅威であった。
そして、向かった先で見た光景に、彼は目を見開く。
巨大な大樹を縦に裂くかのように走った、大きな亀裂。しかしそれは、真に大木を断ち切っているのではない。たまたま木の幹を裂く形で生じた、巨大な次元の裂け目であった。
これ自体が十二分なほどに驚異的かつ危険極まりない代物だ。誤ってこの裂け目に飲まれれば、良くて別の次元に飛ばされ、悪ければ次元の捻じれに身体を引き千切られて死ぬことになる。これがロステアールの国であるグランデル王国で見つかったものであれば、彼はすぐさま国王にそれを報告し、辺り一帯を封鎖したことだろう。
だが、ロステアールが息を飲んだのは、次元の裂け目ではなかった。
彼を恐れさせ、警戒させたのは、その裂け目から金色の目だけを覗かせている、巨大な何かの存在だった。
それを目にした瞬間、ロステアールは無意識に膝を折っていた。この相手にひとたび害悪と認識されたならば、次の瞬間には己は死ぬだろうと、本能的に彼は悟ったのだ。
圧倒的な恐怖を前になおも冷静さを失わない男は、ゆっくりとした動作で腰に下げていた剣に触れた。裂け目から見える縦長の瞳孔が僅かに細まったが、それから目を逸らさぬまま、彼は鞘ごと剣を握って腰から外し、そっと地面に置いた。敵意はないという、彼なりの最上級の意思表明である。
そんなロステアールの動作に、またもや何かの瞳孔が細められる。
『それを置いたからと言って、何になる。お前は最上の一端にして災厄に等しい刃を、その身の内に潜めたままではないか』
その発言は、確かに声であったが、人の発するそれよりも精霊たちの紡ぐ声に酷く似ていた。空気を震わせて伝達する音ではない。脳に直接響くような声だ。
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