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竜5
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「……ドラゴンがこれほどまでに優れたる種とは、存じ上げなかった。あらゆる伝承の中で貴殿らを貶めた人間たちの無礼の数々、この場を借りて、深くお詫び申し上げる」
そう言ったロステアールは、地面に手をついて深々と頭を下げた。だが、その行為に竜はやや不快そうな声を返す。
『やめろ。お前にそのような態度を取られては、俺が怒りを買うかもしれん。元より人間が何をドラゴンと呼ぼうと、それは俺たちの知ったことではない。人間の無知故にドラゴンの名が誤って使われたところで、それで俺たちドラゴンに影響が出ることもないからな。呼び名など好きにしろ』
「有難いお言葉、感謝致す」
そう述べてから顔を上げたロステアールは、内心で竜の言葉に疑問を抱いていた。竜はまるで人間になど興味がないような口ぶりだったが、では何故こうして自分と話をしているのだろうか。
ロステアールの疑問に気づいたのか、竜はずいっとその顔を彼へと近づけた。これがロステアールでなければ、失神していたことだろう。
『ここへは、王の命により次元の裂け目を修復しに来ただけだ。このまま放っておいては、色々と面倒だからな。そこでたまたまお前を見かけた。長き時を生きてきたが、お前のような異端児は見たことがない。だから少し興味があった。まあ、お前に自覚がない以上、そこらを這っている人間と何ら変わりないようだが』
「……異端、と仰るか」
『異端だとも。半端者であるとも言う。まったく、憐れなことだ』
言葉通り憐れむような声が脳内に響いたが、ロステアールは竜が何を言っているのか理解できなかった。
『さて、無駄話が過ぎたな。さっさとこの亀裂を閉じてしまうか』
そう言った竜が、亀裂の向こうへと頭を戻していく。それに向かい、ロステアールは思わず声をかけていた。
「お待ち頂きたい。貴殿は私のことを私よりも知っておられるご様子。もし許されるのならば、貴殿が私に見たものを教えて頂くことはできないだろうか」
ロステアールがそう問いかける間にも、亀裂が端から張り合わさり、徐々に閉じていく。残る隙間から目だけを覗かせた竜は、ロステアールを見つめた。
『そんなもの、俺の口から言えるものか。わざわざ怒りを買う恐れのある行動を取るなどごめんだ。……まあ、精々抗うことだな。そのまま己を騙し続けられたならば、その生をまっとうすることもできるだろう』
その言葉を最後に、亀裂はぴたりと閉じてしまった。最早そこに亀裂があった痕跡はなく、ロステアールの前にはただの大樹があるだけである。
「……半端者の異端、か」
それは、自分を産むと同時に亡くなった母と何か関係があるのだろうか。
ふとそんな考えが浮かんだロステアールだったが、それを確かめる術は、どこにもなかった。
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