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(気持ち…わる……っ)
医師が来てくれ、直ぐに医務室へ運ばれる。
なんで? 紅茶なんていつも飲んでるはずなのに。
とにかく胃がムカムカして吐きそうで、きつい。
「……少し精密な検査をしよう、そのまま寝ていなさい。
王妃様、後はお任せください」
「あの、アーヴィングを呼んでもいいですか?」
「えぇ。その方がリシェも安心するでしょう。
お願いいたします」
パタパタパタ…とロカ様の出て行く音が聞こえ、「では始めよう」という医師の声にグッと目を閉じた。
「リシェ」
まだ続く気持ち悪さと戦っていると、サワリと髪を撫でられる感覚。
「アー、ヴィング…さま」
「辛そうだな」
「……手を」
「あぁ」
そろっと布団から手を出すと、すぐに大きな手が包み込んでくれる。
「検査の結果が出るまで少し時間がかかるそうだ。
まだ安静にしてるといい」
「仕事、は」
「切り上げてきた。今は君の方が大事だからな」
「っ、ありがとう…ございます」
「寝ていろ、もう大丈夫だ」
「はぃ……」
番の匂いと手から伝わる体温で、強張っていた身体から力が抜けていく。
そのまま「ほぉ…」と息を吐いて再び目を閉じた。
「……ん…」
パチリと目が覚めると、カーテンからは夕日が差し込んでいた。
(あれ、いつの間にこんなに寝ちゃって……)
気持ち悪さはもうない。
確か検査の結果を待っていて、その間に寝てしまったんだっけ。
アーヴィング様は、何処にーー
「リシェ」
「ぁ、アーヴィング様すいません、僕本当に寝ちゃってて」
「いや。気分はどうだ?」
「はい、もう大丈夫でsーー ぅわっ」
「なら良いな」
ふわりと抱き上げられた身体。
そのまま横抱きにされ、先程アーヴィング様がいた場所……医師の前にある椅子へ降ろされた。
「やぁ、リシェ。体調は?」
「良くなりました」
「ふむ。でも先ほどの気持ち悪さはまたくるから、和らげる薬を出しておこう」
「………あの、検査の…結果は……?」
僕は、何かの病気なのだろうか。
気持ち悪さがまたくるというのは、何なんだろうか。
治るものでは、ないの?
僕はアーヴィング様と、ずっと一緒に…生きられないnーー
「おめでとう。懐妊だ」
「…………え?」
言葉が上手く聞き取れなくて、呆然と目の前の顔を見る。
「懐妊。妊娠しているんだよリシェ。
さっきの気持ち悪さは悪阻だ。紅茶に牛乳を入れたのが原因だな」
「ぅ…そ……」
「検査の結果も出ている。
君のお腹の中には、新しい命が宿っているよ」
「まだ膨らんではいないからわかりにくいがね」と笑う声を聞きながら、視線をゆっくり下げていく。
僕が、懐妊?
このお腹の中に、生命が??
(ぼくは、)
アーヴィング様との子を、身籠れた……?
「リシェ」
隣を見ると、幸せそうに微笑んでる顔。
それを…見た瞬間ーー
「〜〜〜〜っ、ぁ、アーヴィング、さま……っ!」
ぶわりとこれまでの感情が膨れ上がり、その首元へ抱きついた。
苦しかった、ずっと。
後悔しかなくて、セグラドルを守れたのは良かったけど、でもΩとして機能できない僕は居る意味がないんじゃないかって。
なにより、折角番ってくれたアーヴィング様へ申し訳がたたなくて……僕はどうしてこうなんだろうと、本当に後悔しか…なくて……
ーーけど、
(赤ちゃんが…いる……!)
自分の腹の中に、小さな存在がいる。
そんな奇跡が、起こってもいいのだろうか……?
「ここ最近眠くなったり気怠さがあったりしていただろうが、全て妊娠からくるものだから安心しなさい。
そして、今回が初めてになるからまだ不安定だ。その命がしっかりとリシェの身体に落ち着くまで安静にしていなさい。
アーヴィング、よろしく頼むよ」
「はっ」
背中に回ってる腕に力が入り、頭上で力強く返事をする声が聞こえる。
ぼろぼろ溢れる涙は止まることを知らなくて、アーヴィング様の服を濡らしてしまっていて。
「王妃様も心配されていた。また訪ねるといい。陛下もお喜びになるだろう。
これから定期的な検診が必要になるから、そのつもりで」
「はい…はい……っ」
「リシェ、本当におめでとう」
「っ、ぁり、がと……ご、ざいます」
この医師は、僕を窮地から救ってくれた…あの時の手術をしてくれた人だ。
顔を上げると、その瞳はじんわり滲んでいて。
「〜〜っ、ぅ、えぇ……」
「これこれ、もう泣くんじゃない」
苦笑しながら、白衣の手がそっと頭を撫でてくれた。
諸々の話をふたりで聞き、医務室を後にする。
まだぼうっとしている僕は、アーヴィング様の腕に抱かれたまま大人しく歩く振動を感じていて。
「リシェ。子が落ち着くまで仕事は休め。
今が1番大切な時だ」
「はい……」
「今日はこのまま部屋へ戻ろう。王妃様の元を訪ねるのは明日か、また別の日だな」
「わかり、ました……」
「…リシェ」
チュッ
「愛している。ありがとう」
「ーーっ、は、ぃ」
再び伝った涙を舐め取られ、降ってくる優しいキスに応える。
この人が諦めず、信じていてくれたから。
いつもいつも僕のことを温かく包み込んでくれたから。
だからこそ、こんな奇跡が起こったんじゃないかと思う。
(ねぇ、大丈夫だよ)
父さんになる人は、とても逞しくかっこいい人だよ。
君が強くなりたいと願うなら、きっと剣を教えてくれる。
僕も君が育っていくのを精一杯支えるから
だから、
ポソッ
「安心して、産まれてきていいよ」
「ククッ、そうだな」
君が生まれたその瞬間、きっとこれまで以上に僕たちの世界は輝くのだろう。
そのきらきらと光る瞳と、伸ばされる花のように小さな手のひらを掴みながら、抱きしめて
たくさん たくさん、愛を注いでいこうと思う。
〜fin〜
※専門的な部分はファンタジーとして消化していただけますと幸いです。
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