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きっかけは、ふとしたこと。
リハビリも無事終わり、ようやく普通に歩けるようになったので久しぶりに訓練場へ行こうと思った。
自分の仕事はまだ無く、「心身ともに万全に整えよ」と陛下からもう少し休暇をいただいている。
(久しぶりだなぁ……)
パドル様と過ごしていた際、惜しみなく通った所。
唯一気が抜けて、兵士たちの訓練を眺めたり他愛無い話をしたり…アーヴィング様ともたくさん触れ合うことができた、そんな大切な場所で。
怪我を負ってから、兵士たちとは会えてない。
多分、心配をかけてしまってるんだと思う。
アーヴィング様が報告してくれてるそうだけど、ちゃんと元気な姿を見せたほうがいいんじゃないかな。
それに、前みたいに訪ねてアーヴィング様にも「もう大丈夫だな」って安心してもらいたいし。
折角だから、差し入れでカゴにお菓子と飲み物を詰めてきた。
パドル様の時はこういうの全然できなかったから、喜んでくれるといいけど。
(ふふ、楽しみ)
気持ちつい早足で、歩き慣れた道を行く。
あの角を曲がって、先にある場所から庭へ出て
それからーー
「ぁ、れ……?」
曲がった先、庭に出ようとした足が不意に止まった。
もう少し進んだ所に訓練場がある。
なのに、足が全く動いてくれない。
ぇ、なにこれ。
なんで動けないの僕。
どうしたの?
一体、なにが……
「ーーぁ」
突如響いてきた「キィン…!」という音。
それに、ビクリと身体が跳ねた。
(え……?)
今の音は、訓練場から聞こえる剣同士のぶつかる音。
訓練している兵士が練習がてら戦ってるんだと思う。
そんな、これまでも何度も聞いていたもの。
なのに、
「っ…は……」
何故か視界が一気に狭まって、胸が苦しくなる。
耳元ではさっきの音が何度もこだまして…だんだん大きく、煩くなってきて。
(う、そ)
待って、そんな、落ち着いて。
浅くなってく呼吸にハクハク息をするけど、全然だめ。
寧ろもっと喉が詰まって、目の前がチカチカと暗くなっていく。
「は……ぅ、うぇ…っ」
身体の異常についていけず襲ってきた吐き気に、差し入れのカゴが音を立てて地面に落ちた。
ーーこれは、もしかして。
もしかして…もしか、して……
(っ、嫌だ)
嫌、嫌だ、絶対に認めない。
こんなのは嘘だ。
ぼやける脳裏に浮かんだ〝ある言葉〟にヒヤリとして、血の気が引いてくる。
そんな、まさか自分が。
(でも…これは……)
「ひっ、リシェ様!?」
「誰か!誰か呼んできて!!」
身体が崩れ落ちると同時に、たまたま廊下を歩いていた侍女に支えられた。
耳元で何かを叫ばれているが、自分のことに精一杯でよく聞こえない。
「リシェ様!? 大丈夫ですか!!」
「っ、」
女性とは違う男性の声。恐らく侍女が連れてきた者。
でも今は声の問題ではなく…その者が身につけている〝もの〟から聞こえる、音。
訓練場から来たのだろうその兵士の、ガチャガチャとした鎧が擦れるような…その……
「ーーっ!ひっ、ぅ、ぐ」
「リシェ様っ!」
口元を押さえ蹲る僕に、悲鳴のような侍女の声。
どうしよう、気持ち悪い、嫌だ、怖い。
混乱と恐怖で思わず目を閉じたくなるけど、でもだんだん近づいてくる兵士から視線が逸らせなくて。
なにより、
ーーその腰に付けている〝もの〟を、凝視してしまって。
(嗚呼、僕は)
「ぇ、リシェ様? リシェ様…リシェ様ぁ!!」
身体に負った傷がジクリと痛むような感覚に、ヒュッと喉が鳴って大きく震えてしまって。
兵士が完全に近くへ来る前に、視界が真っ黒に染まり気が遠くなっていった。
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