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(あぁ…もう、駄目だ……)
明るい時間帯なのに、カーテンを開けてない部屋は暗い。
その中で、毛布にくるまりベッドに沈む。
あの日、訓練場でバレて気づいたら医務室だった。
静かな空間で医師とアーヴィング様に問われ、座りながらポツポツと全てを話して。
『そんな…こと、が……』
半ば呆然とする医師の声と、何も言葉を発しない番。
身体でなく心となると治療も難しいのだろう。
『外部の医師を呼ぶか…果たして……』と悩む医師を他人事のように見つめ、視線を落とした。
もう駄目だ、全部ばれてしまった。終わりだ。
(これから、どうなるんだろう)
アーヴィング様に失望されてしまった。番は解消される。
僕は城を出て、他の王族のところに行くのだろうか。
あぁ、せめて世継ぎの子の顔を見てからにしたかったな。
『産まれたら、ちゃんとリシェも抱いてあげてね』と言ってくれたロカ様。
その約束は、もう果たせそうにない。
(アーヴィング様にも、せっかく番ってもらったのにな)
けど、思えば最初から僕らは釣り合ってなかった。
パドル様と共にいた僕は元々みんなの敵だったし。
いくら〝運命〟だからといっても、僕らは番っちゃいけなかったのかもしれない。
この人にはもっといい人がいる。
僕なんかよりずっとずっとお似合いの、隣に並んでもおかしくないような人。
きっとそんな人と支え合いながら人生を歩んでいくんだ。
だから、僕はーー
『…………っ』
分かってる、全部ただの言い訳。
でも、こうやって何かを思っておかないと…僕自身が崩れてしまいそうで……
『リシェ、また君は下を向いているな』
『っ、』
クククとおかしそうに笑いながら、大きな手が頭にのった。
『下ばかり向くなと前に言っただろう?』
『……でも、あの時とはーー』
『なぁリシェ、俺が怖いか?』
俯く僕の視線に合わせ、膝をついてくれるアーヴィング様。
『正直に言っていい。誰も怒りはしない』
頭に乗っていた手が降りてきて、頬に添えられた。
そのままもう片方の手も伸びてきて、包み込むように顔を触ってくれて。
『〜〜っ、こわ、ぃ、です……っ』
今はなにも着けていない素の手のひら。
けど、またこれに鎧を着けられたらと思うと、僕はどうなるかわからない。
自分の、番なのに……
『リシェ、大丈夫だ』
『ぇ……』
『俺は、絶対に君を離したりはしないから』
目の前の顔が、力強く笑った。
『今回のは気付かなかった俺にも責任はある。兵士なんて目覚めてから見てなかったもんな。
俺も初めて怪我した時は鎧や剣が怖くなったものだ。今回の君は生死も彷徨ってる、怖くなるなんて当たり前だろう。だから大丈夫、あまり気に病むな』
『そうだね。私もこうなることを考えていなかった、すまないリシェ。近いうちに他の医師と連絡を取るから』
『症状が落ち着くまで、俺はリシェと部屋を分けたほうがいいでしょうか』
『うぅん、そうだね…それがいいかm』
『ぃ、いや、です!』
それはだけは嫌だ、絶対。
『このまま、アーヴィング様と一緒にいさせてください』
『辛くはないかい?』
『分かれるほうが、辛いっ』
『リシェ……』
目を見開いたアーヴィング様が、クシャリと顔を歪める。
『抱きしめても、いいか?』
『っ、はい……いっぱい、抱きしめて…くださ』
震える僕を優しく包み込む抱擁に、涙が止まらなかった。
それからは、ずっと部屋に閉じこもっていて。
アーヴィング様から兵士に話はしたそうだけど、見せる顔が無く訓練場に行ってない。もちろん向こうから訪ねてくることもない。
城の者も、気を遣ってか誰も部屋には来なくて。
だから最近はずっとひとりだ。
アーヴィング様の棚には、鍵がかけられた。
「もうひとりで頑張らなくていい」と、扉を閉められてしまった。
(僕は、どうすればいいんだろう……)
克服したいのに「頑張るな」と言われ、朝と夕にアーヴィング様を出迎えるだけの毎日。
外部の医師が来てくれるまで、僕にできることはないの?
僕が傷つけてしまった人たちに早く謝りに行きたいのに、僕はなにもできない……?
(それとも、もう…期待されてない、とか……)
最近よく沈む思考。
今日も、ズブズブの暗闇に落ちていく。
この国で最も強い人の番がこんななんだ。きっとみんな失望した。
アーヴィング様も今はあぁ言ってくれてるけど、もしこれが一生治らなかったらどこかで確実に切り捨てられる。
僕が変に頑張れば切りにくくなるから、その為に鍵をかけたのだろうか?
ポツリ
「結構…克服できてたのにな……っ」
見て、触って、感じて。
普通のやり方ではなかったかもしれないけど、でも克服しようとそれなりには動いていた。
そんなこと…もうしなくていいのかな……
(………静かだ)
今日は城内が一段と静かな気がする。
そう言えば、今朝「城に訪問者が来るから、君は部屋から出ないように」ってアーヴィング様が言ってたような……
誰が来るんだったかな。部屋から出ることはないから聞き流してしまった。
まぁ、関係ないか……
暗い室内でもぞもぞ寝返りを打ち、また思考の沼へと落ちて行く。
ーーコツン コツン。
「………ぇ?」
カーテンをしていた窓から、ノックのような音。
なんだろう? この部屋は1階ではないから、鳥か何かがぶつかった?
それとも、ただの気のせい……?
どうしようか、見に行ってみようかと起き上がった僕の耳へ
ーー突如、パリィ…ンッ!と硝子の割れる音。
「っ!?」
ビクリと震える身体、思考が停止する頭。
薄暗い部屋の中、カーテンの破れる音と共にガシャリと入ってきた、〝それ〟はーー
「ーーーーえ……?」
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