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【side: アーヴィング】
(〝寝耳に水〟とは、このことか……)
正直、想像もしてなかった。
俺もまだ若い頃、怪我を負ってから剣と鎧が怖くなった。
兵士という職に自ら志願したのにこの醜態。
恥ずかしいのと情けないのとで一杯一杯になり、皆が寝静まった後ひたすらに1人訓練場でカカシと戦っていた。
リシェは、兵士ではない。
志願もしてない一般の市民だった者だ。
それが剣に貫かれ生死を彷徨って、怖くないことがあるものか……
(俺は、リシェのなにを見ていたんだろう)
目が覚めたことに、心から安心しきっていた。
日に日によくなる身体と増えてきた笑顔に、もう大丈夫だと思ってしまっていた。
あの事件はもう過去のものなのだと…乗り越えることができたのだと、そればかり……
「ーーっ!」
まったく、自分自身に腹が立つ。
(きっとあの子は、〝自業自得だ〟と思っていたはず)
あの剣に飛び込んだのは自分だと。
自らが立てた計画だったと。
だから、それでこうなってしまったのは自身の責任。
ーー自分のせいで俺たちが傷つかないよう、隠して乗り越えようとしていたのだと。
(あぁ本当、君はいつだって他人思いだ)
俺たちは確かに傷ついた。
だが、そんなもの君が負っているものに比べたらなんてことない。
寧ろ、俺たちが驚いたことで更に君の傷が抉れただろう。
大丈夫だっただろうか。
これ以上傷は深くはならないだろうか。
兵士も皆、心配している。
どうすれば君を支えられるのかと、日々自問自答を繰り返している。
「君とまた話がしたい」「笑い合いたい」
それは、決して君だけの一方通行な想いではない。
兵士たちだっていつも君のことを大切に想っている。
だから、どうかそれが通じてほしい。
このトラウマは、〝怖い〟と思っている対象を〝怖くない〟と認識することができれば乗り越えられるはず。
俺や兵士たちの想いがリシェに通じれば、きっとーー
「団長」
「っ、どうした」
また考え込んでしまっていた。
仕事中は職務を全うせねばと分かっているのに。
(番のこととなると、俺もこうなるのだな)
気を引き締めねば。
「本日訪問する国の者たちが、ただいま陛下との謁見を終えました」
「そうか。では、後は帰るのみだな」
「はい」
「俺も外へ出よう」
今日は他国の者たちが我がセグラドルを訪ねて来る日。
ロカ様が王妃となられてから国は大分落ち着きを取り戻し、戦も減った。
その分同盟国との連携は盛んになりつつある。
本日の訪問者は、そんな同盟に「入りたい」と名乗りを上げてきた国で。
(セグラドルの何倍も小さい国だし、我が国との戦争も無かった。だから、まぁ軌道に乗り始めたこの国が気になってのこととは思うが……)
宰相が「待った」をかけた。
「この国がある〝場所〟が気になる。この国の近くにある国はセグラドルと対立している。もしその国に今回の国が買われているとすれば、罠かもしれない」と。
今、セグラドルは次の世継ぎが生まれようとしている大切な時期。
念には念を入れ慎重に動くべきだという意見に、皆が賛同した。
そんな状況で、今日は城内は少々緊張した空気に支配されている。
俺も彼らの訪問を門前で待ち、目を光らせながら城へ通した。
特に変な動きをする者はなく、陛下や宰相の待つ謁見の場へ案内し仕事部屋に戻っていたが、思ったより早く終わったのか……
(なにも滞りなく済んでいたらいいのだが)
それは後で宰相に聞くとしようと、報告に来た兵と共に再び門前へと出る。
とーー
「……なんだ?」
もう国の者は帰りの馬車に乗っていてもいい頃。
それなのに、馬車へ乗るのを何故か自分の部下たちが止めている。
それだけではなく、ざわざわと動き回っている兵士たち。
「団長」
「どうしたんだ、これは」
「実は、訪問してきた国の使者の数が足りないのです」
「……なに?」
他国からの客である分、失礼のないよう念の為小声で報告される。
「向こうはなんと?」
「〝そんなのは見間違いだ〟と……」
(見間違い? 馬鹿な)
俺の部下たちが見間違うはずがない。
粗相の無いようやんわり対応する兵士に怒鳴り声を上げている使者たちを見ると、確かに門前で見た時よりも1人2人少ない。
「おい、お前が兵士の頭か!?」
「この者たちは話が通じらん!私たちは今日中に国境を越えておきたいのに何故邪魔をされなきゃならんのだ!」
俺を見つけてすぐ話しかけてくる者たち。
ーー成る程、そこまで切羽詰まっているということだ。
「馬車へは乗せるな!その場から動かないよう取り囲め」
「「はっ!」」
「な、貴様!無礼だぞ!!」
「我々の国と戦でもしようというのか!?」
「大いに結構だ。共に来た者を捨て駒として切り捨てる国など、容易く飲み込んでしまえる」
「……っ、な」
「残りの者、俺に続け」
背中越しに止まらぬ罵声を浴びせられながら、周りの兵へ指示を出していく。
陛下と宰相へ現状を報告し、そのままその場で護衛。
残りの者たちは他の兵士にも情報を共有し、総出で居なくなった者の捜索。
(真っ先に浮かぶのは、王妃様の部屋)
世継ぎを身篭っている王妃様を狙って来た可能性がある。
やはり対立していた国の息がかかっている者たちだったか……
王妃様の部屋の守りは頑丈だ。
普段の何倍もの兵を配置し、中には入れぬよう対策している。
リシェにも、念の為朝ひとこと言っておいた。
怖がらせないよう、リシェから見えない位置や部屋へと続く廊下に兵士を立たせてはおいたがーー
「リシェ様!!」
「っ!!」
中庭のほうで叫ばれた、番の名前。
考えるより先に身体が動き、一気にその場へ向かっていく。
王妃様ではなくリシェ。
部屋の方向ではなく中庭。一体何故。
浮かぶ数々の疑問を打ち消すよう全速力で走り抜け
そして駆けつけた、先ではーー
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