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リクエスト15: リシェが剣を習う話
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リシェが剣を習う話
※後日談3以降の話です。
【side: リシェ】
「そう、そうですっ、もう少し踏み込んで」
本日もキンッキンッと剣同士のぶつかる音が響く訓練場。
その隅で隠れるようにしながら、すばしっこく動く人影。
「っ、く!」
カキンッと鋭い剣先が相手の剣とぶつかる。
(まだ、)
まだもう少し先まで腕を伸ばさないと、届かないーー
トラウマが解決した後も惜しみなく訓練場へ通っていたら、自然と剣に興味が湧いてしまった。
自分を突き刺したものなのに今自分がそれに守られているのが面白くて、なにより大切な番の1番の相棒というところにも惹かれて、つい兵士に声をかけて。
アーヴィング様は絶対持たせてくれない。過保護にされてる自覚があるし「俺が守るから君は戦わなくていい」と言われてしまう。
兵士たちにも初めは「いやいや!」って断られたけど、「触りだけでいいからちょっとでもしてみたい」という僕の熱意に気圧され、「だ…団長のいないときなら……」と言ってもらえて。
今、こうしてアーヴィング様が訓練場にいない時間帯に隅っこを借り教えてもらってる。
「リシェ様、右脇がガラ空きです!」
「っ!」
すぐ飛んでくる剣先を剣身で受け流し、体制を整える。
僕は一般男性よりも背が低いから相手の下から攻撃するのが合ってる。
身軽な分すぐ動けるし、体を小さくし懐に入り込んで、それから突くのがいい。
こうして、屈めてーー
キンッ!
「うぉ、いいですね今のっ、」
「もっと……!」
(もっと早く!!)
『リシェ様はレイピアが合ってると思います』
短剣・長剣・大剣・大鎌・槍……
〝剣〟といっても沢山種類がある中で、兵士たちは長剣を薦めてくれた。
僕の体格だと大きい獲物は持てないし、短剣は初心者には難しいらしい。だから長剣、その中でも比較的軽くて動きやすいレイピアがいいんじゃないかと。
貸してもらったものは確かに手に馴染み、すぐしっくりきてどんどん動かせるようになって。
(駄目だ、また余計な力が入ってる)
レイピアを扱うコツは、力を入れないこと。
向かってくる剣先は剣身で流したり避けたりして処理し、とにかく自然体でいる。そして隙を狙い渾身の力で突く。
素早さと判断力が要なこの武器は、思いのほか僕に丁度いいようで。
キィンッ!
(楽しいん、だよなぁ……っ)
楽しい。
気ままにやらせてもらってるというのもあるけど、ハマってしまいどうしようもない。
体を動かすのも気持ちいし、出来ないことが出来るようになるのもいいし。
「リシェ様、今日はこの辺にしときましょ」
「ぁ、はいっ」
相手が剣を下ろすのと一緒に下ろす。
もうそんなに時間経ってたんだ、気づかなかった。
「リシェ様大分上手くなってますね、この前自分が教えた時よりよくなってる」
「上達早いっすよね。剣に迷いがないというか」
「動きも綺麗で無駄がちょっとずつ減ってきてます」
「ほんとですかっ?」
わらわら集まってきた兵士たち。
教えてもらう間その人は訓練ができないから、1人に決めず代わる代わるいろんな人に教えてもらっていて。
それぞれにクセみたいなのがあり、攻め方も違ってとても勉強になる。
「団長にはまだお話ししないんですか?」
「どうしようかな…迷ってます」
「ここまで真剣にしてるし、きっと怒られないと思いますけど」
「言うだけで言ってみたらどうです?」
「ふふふ、ですかね」
「はい。そのほうがもっと学べるだろうし、もっとーー」
「なにが、〝もっと〟なんだ?」
よく響く 低い声。
あれ、いつも正門からなのにな。裏口から戻ってこられたんだ。
ちゃんと時間内に習うのをやめたのに、片付けが追いつかなかった……
ギクッという音が聞こえてきそうなほど固まった兵士たち。
囲まれていたところに道ができ、ゆっくりと長身が歩み寄ってくる。
「お疲れ様です、アーヴィング様」
「リシェ、剣を持っているのか?」
「ぁ、はいっ」
「危ないからこちらに渡すんだ。怪我でもしたらどうする」
すぐ伸ばされた手。
「誰かが持たせたんだな」と呆れているかのようなそれに、心のうちで笑ってしまう。
(どう、しようかな)
ここで説明するのが1番しっくりくる気がする。アーヴィング様にいつまでも隠し事してるのも嫌だし。
でも、ただ口で言ってもきっと辞めさせられる。大切にしてくださってる分こういうことをさせてもらえないのは知ってる。
なら……
「…ーーっ!!」
握りの部分へ手をかけ、渡そうとしたのを引き抜き一気に間合いを詰めて喉元目掛け突いた。
キィン……!
「なっ、!」
(わ、すごい)
流石騎士団長。
腰にあった剣がいつの間にか抜かれ、自分の剣先を受け止めている。
大丈夫だろうと躊躇なく突いたけど本当に平気だった。しかも全然剣が見えなかった、僕のよりずっと重たいものなのに早い。
すぐに体制を整え、空いている胴へ剣先を振る。
キン!キン!と剣同士のぶつかる音。攻撃は全てアーヴィング様の剣で受け止められ、鎧へまったく当たらない。
すごい、教えてもらった兵士たちよりずっと大きな体なのに一度も剣が通らない。
懐に入ればいけるかもしれないけど、そこまでが遠い。
体格差があるからそれを逆手に取れると思ったんだけどな、流石だな。
(もっと…もっと……!)
余計な力を抜いて、どんどん思考を回しながら素早く剣を繰り出していく。
前からの攻撃じゃ勝てそうにない。
なら、後ろから。
どこかで背後とをとって、攻めればーー
「……!」
ぽっかり空いた、左脇。
そこへ吸い込まれるよう体を入れ、一気に滑り込む。
(ここから、まわって)
後は、背中から剣をーー
キィ…ン!!
「っ!」
突然の、柄頭を狙う強い攻撃。
これまで一度も剣を向けてこなかったアーヴィング様の一撃で、持っていた剣が自分の背後に飛ばされた。
「ぅ、わっ」
衝撃でよろけた僕を、大きな腕が支えてくれる。
「まんまと誘われたな、リシェ」
「ふふ、わざと空けられたんですね」
「狙っているようだったからな。ーーっと」
「わぁっ」
ふわりと、宙へ浮く体。
「いつから習っていた」
「ひと月ほど前から」
「ほう、ひと月でこの動きか。なかなか筋がいい。
俺に対しても遠慮のない剣だった。団長だからと怖気づかれるなか、こんなに真っ直ぐこられたのは久しぶりだ。
君は並みの兵士より度胸があるかもしれないな」
「皆アーヴィング様を尊敬してらっしゃるので、緊張されるんですよ」
「リシェは尊敬していないのか?」
「い、いいえしてますっ!とても!
ですが、これくらい真剣じゃないと許してくださらないと思って……」
「…君は、剣を学びたいのか?」
「はい…でも兵士になりたいわけではありません。
仕事は今のままで十分ですから、趣味というか……」
「実戦はしないということだな?」
「はい。あ、けどロカ様に何かあったときとか、いざという時には使えるかもsーー」
「駄目だ」
「……ぇ」
「君に実戦で剣を持たせることはさせない。
そのための俺たちだ。なんのためにこうして訓練していると思っている」
「ぁ、そ、そうですよねっ、ごめんなさーー」
「実戦以外なら いい。
運動程度なら問題ないだろう」
「…………え?」
待って。
いま、〝いい〟って 言った?
顔を上げると、苦笑しているアーヴィング様。
「城にも趣味程度に剣を振るいに来る者はいる。君もそのひとりになるといい。ここまで真剣にしているし、教えるほうも身が引き締まるだろう。
それに…どうやら俺は、君が剣に興味を持ってくれたことが嬉しいようだ」
「えっ、な、なぜ?」
「……恐らく、俺が根っからの剣好きだからだろうな」
片腕に僕を座らせながら、もう片方の手で口元を隠す姿。
照れてる? すごく可愛らしい。
「あー団長照れてるんですか〜?」
「嬉しいですもんね、自分の番が自分の好きなものを好きになってくれるなんて〜」
「ーーっ!お前ら、よくも俺に黙ってリシェに仕込んだな。お前らのクセが移ったらどうする?」
「大丈夫ですよ〜俺たちみんなで教えてたんで、クセが移るほど一緒にはしてません」
「そんな嫉妬しないでください団長〜〜」
「ああ、くそ……っ!」
恥ずかしいのか何なのか、普段見られないアーヴィング様に胸がすごくキュウっとなる。
「これから君を教えるのは俺だけだ。いいな」
「はいっ」
「俺のクセは移るだろうが問題ない、そこまで酷いものではないから」
「酷くてもいいです。移りたいです」
「なっ」
「アーヴィング様、大好きです」
ぎゅっと首元に抱きつくと、周りから兵士たちの歓声。
(良かった、受け入れてくださった)
寧ろ喜んでくださった、嬉しいな。
トラウマ以降、多少なりとも心配されてたんだろう。またぶり返したらどうしようとか。
それを自分から慣れていくようなことをしていて、安心されたのかもしれない。
兵士の皆さんも、お咎めなしでーー
「さて、お前らの処罰だが」
「えっ」
「だ、団長待ってください」
「俺たち罰せられるんですか!?」
「当たり前だろう。
俺の番に勝手にものを教えたんだ、それ相応の罰を受けてもらわないとな」
「そんなぁ……」
「アーヴィング様待ってくださいっ、これは僕がーー」
「罰として、俺と一対一のぶつかり稽古をしてもらう」
「……え」
「えっ、それだけ…?」
「なんだ不満か? ならもっと訓練を足すがーー」
「いや十分です!ありがとうございます!!」
「団長とぶつかり稽古!久しぶりで腕がなります!」
ブルリと武者震いしながら、それでも嬉しそうな姿。
本当いい信頼関係だなと微笑ましくなる。
「アーヴィング様」
「? なんだ」
「許してくださりありがとうございます」
「さっきの剣捌きから、下手に教えていた訳じゃないのが伝わったからな。
リシェに傷ができてもいないし、まぁ、妥協点だ」
「クスクスっ、そうですか」
「せっかくだからリシェも見ていくか? 勉強になると思うが」
「はいっ、ぜひ」
地面に降ろされ、ゆっくり手を引かれながら訓練場の中央へ歩いていく。
いつも壁側の椅子に座ってたり隅っこにいたりしたから、こんな処まで来るのは初めてで。
「……アーヴィング様、愛しています」
「ククッ、俺もリシェを愛している」
ぎゅっと握ってくれる大きな手から伝わる温度に、体ごと抱きついた。
fin.
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