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リクエスト16: ロカとラーゲルクヴェストの結婚式の話
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ロカとラーゲルクヴェストの結婚式の話
※後日談2以降の時間軸です。
【side: リシェ】
「それでは、国王陛下と王妃様のご入場です!」
よく晴れた空の下。
惜しみない沢山の拍手に包まれながら、ゆっくりと一歩踏み出す2つの影。
(おめでとうございます、ロカ様、陛下)
ーー本日は、おふたりの結婚式です。
目覚めて、体の調子を見ながらリハビリして、そうしているうちにポツリとロカ様から言われた。
『あのねっ、僕らの結婚式、リシェにも来てほしいんだけど……』
正直、難しい。
まだ体がちゃんと動かないし、物もまともに食べられない。
それにパドル様と共に行動していた手前、城の人たちとはまだ気まずいし……
(僕が行けば、確実に場を盛り下げる)
この国で最も重要な結婚式なのに、それは避けたい。
けど…行きたいと思ってしまうのも事実。
同じ馬車で来た同い年のΩ。色々あったけど仲良くしてもらっていて、元気で本当に優しい人で。
そんな彼の幸せな瞬間に立ち会えるなんて、こんなに嬉しいことはない。
……でも、僕は遠慮したほうがいいなぁ。
『…ロカ様、申し訳ないですが僕はe』
『リシェ、どうしてこのタイミングですると思う?』
『ぇ…と……ロカ様が安定期に入られたからでしょうか』
『うんうんそれもある、初めてだし不安定なことだらけだしね。でも、大きな理由は違うかな』
『陛下の公務などが落ち着かれたとか……』
『そうなるといいんだけどねー!ラーゲル様はいつも多忙…僕も早く手伝いたいんだけどまだまだで』
『…なら、どうして……?』
『リシェが目覚めたからだよ』
『ーーぇ、』
『国王陛下の結婚はずっと望まれてたことだったから、民を安心させるためにもできるだけ早く挙げるよう宰相から言われたんだけど、僕らが納得しなくて。
結婚するとき、周りに不幸な人がひとりでもいたら幸せになれないと思うんだよね。だからみんなが漏れなく笑ってるときに式をしたくて。
〝自分だけじゃなく関わってくれた人たちが幸せになれる結婚式をするもんだ〟って両親にも言われてきたし』
『ロカ…様……』
『ラーゲル様も、〝まだ目覚めぬ者がいるなかで式を挙げるなど縁起でもない〟と言ってくださったんだ。
望まれてるのはわかるんだけど、まだリシェとアーヴィングのことが終わってからにしたいって。
それで、リシェが目覚めて無事アーヴィングと番になって、僕もお腹の子が安定期に入ったしで、今しかないなってなってる。
タイミングもバッチリだし、リシェはまだ本調子じゃないから負担にはなってしまうんだけどーー』
パタリと喋るのをやめたロカ様の両手が、僕の両頬へ伸ばされる。
『ね、泣かないでリシェ。
リシェさえよければ来てほしいんだけど、どうかなぁ』
『…もち、ろんっ、参加させて、いただきますっ、』
『やった!よかった!!』
溢れる涙をそのままに、ギュッと抱きしめられる体。
(僕は、自分のことばかりだった)
自分が城の人たちと気まずいから。
自分がこんなで迷惑をかけるから。
そればっかりで、ロカ様たちのお気持ちを考えてなかった。
〝自分たちだけじゃなく、関わってくれた人たちのため挙げる式〟
その中に僕も入ってて、僕が目覚めるのを待っていてくださった。
それを断るなんて、できるはずがない。
『なら、式までにもっと体を動かせるようリハビリしますね』
『それはいいよっ!アーヴィングが助けてくれるだろうしそのままで十分』
『でも、当日は警備などでお忙しいでしょうから』
『いや、それはそうかもしれないんだけど、けどさ、』
『ふふふっ』
『?』
『ロカ様ありがとうございます。もう今から幸せです』
『! こちらこそ、いつもありがとうリシェ』
(本当、あたたかいな)
あたたかくて慈愛に満ちて、正にセグラドルの太陽のようなお方。
そんな方が幸せになられる舞台に呼ばれることに幸福を感じながら
それまでに少しでも動けるよう、精一杯リハビリしようと 思ってーー
(わぁ……お綺麗だ)
純白の衣装に身を包んだロカ様が、お腹に手を添えながら牧師のもとへ進んでいく。
隣の陛下もロカ様を気遣うよう身を寄せていて、そのお姿を見れただけでも今日はもう十分だ。
国をあげての結婚式。
前のテーブルから、王族の方々・ロカ様のご両親や親族・貴族・町や村の代表の者たちなど、広い会場いっぱいに座っている。
僕ら城の者たちは1番後ろの列のテーブル。コックやメイド・兵士など仕事をしている人たちを除いて、遠くからひっそりと参加させてもらった。
「リシェ、きつくはないかい?」
「ぁ、はいっ、ありがとうございます」
「無理がきたら遠慮せずに言いなさい」
隣には医者。アーヴィング様は警備の為ここにはいない。
(結局、あまり歩けるようにはならなかったな)
ひとりで会場を行き来できるようになりたかったのに、体が追いつかずアーヴィング様に運んでもらった。
僕の席にはクッションがいっぱいあって、周りもよく知った顔ばかりで、気を遣われたのがよくわかって。
(ほんとは庭師のみなさんとか、まだ話したことのない人たちと話してみたいんだけど……)
まぁ本調子に戻ってからかと、小さくため息を吐いた。
***
挙式・牧師の言葉・誓いの口付け。
主催の言葉・乾杯の挨拶。
会談・催し物・手紙等、全てが滞りなく行われていく。
「リシェ」
「アーヴィング様っ」
仕事の合間に来られたのか、気がついたら席の後ろにいた。
「お疲れさまです」
「あぁ。体は大丈夫か」
「はい、問題ありません」
「料理にあまり手を付けていないようだが」
「陛下とロカ様を見ているだけでお腹いっぱいで。
せっかく僕に合わせたものを用意してくださってるんですが…」
「気が乗らないのなら、また後で食べればいいだろう。
リシェが楽しんでいるようならいい」
「っ、はい」
お優しい。
心遣いが嬉しくてふふふと笑ってしまう。
「おや、花嫁のブーケが未婚の者へ渡りますな」
医者の言葉で前を向くと、ロカ様がブーケ片手に席を立たれた。
未婚の者たちだけ前に呼ばれるのか、はたまた既に決まった者がいるのかーー
「って、え」
ふふんと笑いながら、真っ直ぐこちらへ来られるロカ様。
待って、これはもしかしなくても僕だ。
この場でもらっていいのだろうか、失礼にならないか。
城以外の人たちは事件のことを知らないけど、この列のテーブルはみんな知ってる。
まだ話したこともない城の人がいるのに、王妃様からいただくなんて 筋違いにはならないかーー
「リシェ」
静まった会場で、ポツリと呼ばれる僕の名前。
「僕らはこの国でたったふたりのΩだ。
互いに運命を見つけられて、こうして番になって。
だから、次は君が幸せになる番(ばん)だよ」
目の前に差し出された、真っ白なブーケ。
立ちあがろうとして、両肩をアーヴィング様に押さえられ座らされて、それに申し訳ないと思いながら震える手でなんとか受け取って。
「アーヴィング」
「はっ」
「ーーリシェのこと、よろしくね」
「はい。生涯をかけ 守りぬきます」
(ーーーーぁ、)
待って、これってもしかして そういう。
にこりと笑い合うロカ様とアーヴィング様に、瞠目する。
側から見ても僕の立場は不安定。
王妃でもなければ城の者でもなく、ただΩでたまたま運良く騎士団長と番いそのまま居続けてるだけ。
ロカ様から聞いた、僕を欲していた貴族たち。
そして、まだ僕の処遇に納得していない城の者たち。
その人たちを黙らせるため、こうしてロカ様は僕にくださったんだ。
「王妃が認めてるんだから、認めてね」と。
壇上から見守っている陛下も、多分同じ気持ち。
ロカ様のパフォーマンスとアーヴィング様のお言葉、この場の雰囲気。
それら全てが僕の立場を確立させている。
「っ、ありがとう…ございます……っ、」
「んーん、リシェには十分すぎるくらい守ってもらったから。
これからはお互い助け合って過ごしていきたいね」
「はいっ」
様々な想いが散りばめられたブーケ。
それをめいっぱい抱きしめながら、頭を下げる。
(僕も、もっと強くなりたい)
自分のことばかり考えるんじゃなくて、もっと周りを思いやれるような。
傷が治ったら、城中を歩いてみんなに声をかけよう。
一人ひとりとちゃんと話して、仲良くなりたい、認められたい。
仕事も探して、一生懸命働こう。
アーヴィング様の番として、恥ずかしくないように。
「リシェ」
「アーヴィング…さま……」
「綺麗なブーケだな」
「っ、はい!」
ポンっと頭に置かれた手。
変わらない温もりに安心しながら、見つめてくださる瞳に笑いかけた。
***
その後も筒がなく進んでいった式。
全てが終わり招待客も捌け、会場には僕とアーヴィング様・ロカ様・陛下の4人だけ。
「せっかくみんなが集まる場だからさ、牽制も兼ねてー」
「お前にしては悪くない案だったな」
「でしょっ!? これでもうリシェに変なことするのはいなくなったはず」
「だが、やはりちと遠すぎたのではないか。
あれほどリシェを近くの席にしろと言ったのに」
「それだとリシェが緊張しちゃいます!それじゃ元も子もないんですよ。
もう無事終わったからいいじゃないですかー!」
「いや、お前は歩きすぎだ。このあと医者に寄って帰るぞ」
「だから!僕安定期だってーー」
止まらない会話。
アーヴィング様と一緒にクスクス笑ってしまう。
「俺たちの式はいつ挙げようか」
「そうですね……」
自分が式を挙げるなんて考えてもなかった。
そもそも人前に出ることがあまり好きではないし、番っているからそれで十分だと。
でも、こうして陛下とロカ様からバトンをもらったからーー
思い浮かぶのは、小さな式。
深い繋がりのある人だけを呼んだ、ささやかで幸せなもの。
「…まだまだ時間はありますので、ふたりでゆっくり考えたいです」
「そうだな、そうしよう」
僕の両親はきっと喜んでくれるだろう。
アーヴィング様のご家族にも挨拶へ行かないと。
式をする頃には、世継ぎ様もお生まれになっているはず。
そして、僕にも いつかーー
想像する この先のこと。
願わくは、幸せが満ち溢れているようにと思いながら
寄り添い合っている陛下とロカ様のように、僕たちも身を寄せた。
fin.
時系列的に始めのほうなので、まだ距離感のあるリシェとロカでした。
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