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陰間茶屋
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うまく歩けないリュウに肩をかして廊下に出る。
「ハァ…」
焔来に支えられながら、リュウは申し訳なさそうに下唇を噛んだ。
「ごめんね焔来。…焔来だって…!! ハァ、…すごく、辛そうなのに」
「馬鹿。俺はもう心配いらない……っ」
両側を硝子障子にはさまれた仄暗い廊下。
途中ですれ違った陰間( カゲマ )の少年が、二人を不思議そうに横目で見る。
何も知らないその少年は、自分の客取りのためにさっさと廊下を曲がっていった。
そして焔来たちは裏口から密かに抜け出し、音をたてぬように木戸を閉める。
...パタン
外は凍るような寒さだった。
裸足のリュウに焔来が足袋( タビ)と草鞋( ワラジ )の深靴をさし出し、リュウはそれを履いた。
軒下から出ればそこには雪が積もっている。
こんな夜を素足でうろつけば、あっという間に不審な目を向けられることだろう。
けれど、互いに異なる理由で身体が熱い二人だ。そんな彼等にはこの空気の冷たさがかえってちょうどいい。
裏口から表の通りに出た後、なるべく目立たないよう俯いて歩いた。
「…入るときに気付いたけど、この街は周りを壕に囲まれてんだな」
「そう…だね。…脱走者をっ…ふせぐためさ」
「正面の門には見張りがついてたし、…くそ、黙って出られるのか?──…て、…あいつらは…?」
「あれは…!!」
柳の木の下を通りすぎ、道の突き当たりに構える黒塗り木造のアーチ門に目をやると
…そこには、番男と話す黒服の人間たちが集まっていた。
「──憲兵だ!」
「憲兵っ…、あれが…!?」
リュウが突如、立ち止まる。
そしてほぼ同時に、番男と話し終えた憲兵たちが花街へなだれ込んできた。
初めて見る憲兵たちは、周囲から浮いた…なんとも奇怪な格好の集団だった。
焔来がそう思うのも無理はない。
いち早く洋装を取り入れた憲兵は、ボタンをあしらった黒の上下と、白帯に紋章を縫い付けた黒帽子が制服である。
生まれ故郷にも落方村にも、そんな西洋かぶれな人間はもちろんいなかったのだ。
「こっちだ…っ、焔来」
「ッ─…わかった!」
とにかく今は憲兵の観察をしている場合ではない。
二人はさっと向きを変え、なんとか路地へと身をすべらせた。
間一髪、二人は見付からなかったようで、路地に隠れた彼等を誰も追ってこない。
花街へ入った憲兵たちは固そうな靴で雪を踏みしめながら、道を真っ直ぐ進んでいった。
それは一目散といった感じで
焔来が路地から顔を出した時にはすでに、彼等の背中だけが見えていた。
だが安心できるとは限らない。
憲兵が脇目もふらず走った先には──大楼の隣にある、例の陰間茶屋があったからだ。
「あいつら……!」
それを見届けた焔来は、身の危険を察知した。
「あの憲兵、俺たちを探しに来たのか…!?」
その可能性は十分にあった。
焔来は紅粉屋の主人を殺した。だが──家に住む他の人間まで皆殺しにすることはできなかった。
焔来を「鬼」だと知る者が
主人の死体を目の当たりにした後で、警吏に連絡したのだろう。主人を殺した鬼が、仲間を救うために花街へ向かったのだと──。
“ どうする……!? ”
そして今、ばれた筈だ
もうひとりの鬼もすでに茶屋から姿を消していることが。
「急ごうリュウ…! あいつらっ、俺たちを殺す気だ…!!」
「……ハァ……!!……ハ ァ、…ッ……」
「…リュウ?」
「…ン─‥…ハァ、ハァ……っ、……ハァ」
憲兵の様子を伺っていた焔来が振り返ると
そこではリュウが──路地の板塀に背をあずけて寄り掛かっていた。
シワの寄った目元。半開きの口。
ますます呼吸が荒くなったリュウはとても苦しそうで、そして…今まで見てきたどんな彼よりも、色っぽい。
「…はぁ…ッ‥……─ク、ぅ」
「……っ」
場違いにも見とれてしまったくらいに。
「……、‥…ごめ…ッ……焔来、‥…急ごう……!!」
「ちょ、待てよ」
一度うなだれた後、ふらふらと歩き出したリュウを
「リュウ、お前……!」
焔来は正面から受け止めた。
「……!!」
受け止めた拍子に、焔来の太ももに " 何か " 固いものがあたる。
なんで……!?
「これ…!! あの煙のせいなのか?」
「…ァ…!」
「どんな代物( シロモノ )吸わされてんだよ!? おい! 何だよこれっ…」
抱き留めたリュウの肩を掴んで揺すりながら
問いただす声は思わず、責めるような口調になってしまっていた。
そんな焔来の腕を払いのけてリュウが後ずさる。
「本当 に…ッ‥…ハァ、…ごめ…ん、こんな……っ…!!」
後ろに下がり、再び板塀に背をつけた。
そして焔来と視線を絡ませ…
ついに限界だと言うように、胸に手を置く。
「もぅ……ッ…ハァ、信じられ ないよ…‥‥!! 焔来の、顔…見るだけで、こんなにして…──ッ」
「……っ」
「焔来の匂いだけで…っ…、僕の身体は…!」
胸に当てた手が、彼の白い肌に爪を立てた。
リュウが茶屋に閉じこめられてから、絶えず焚かれていた香( コウ )の煙──。
それは嗅いだものを性的に興奮させる作用を持ち、本来ならば、行為の前の遊女がたしなむ。
そんなモノを過剰に吸ったリュウの身体は…発情するほかないのである
「僕はこのざまだ…ッ……焔来、先に、逃げて」
リュウの意思など関係なく、強制的に──。
「…憲兵が…もどる前に、門から外へ─…ッ 出るんだ。…ハァ、ハァっ……!! …そう…、したら」
「…っ、追いて行けるわけない」
「いいや、行くんだ……!! いいかい? 門を出て、北東の…道を……っ、街の、ハァ、外に……」
「……っ」
リュウは焔来へ逃げろと告げた。
そんな事を言っても、彼が首を縦に振るわけがない。
それはもちろん知っている。
だが…それしか道がない。
“ こんな時に焔来の足を引っ張るなんて…… ”
有り得ない。許せない。
こんな自分なら──イラナイ
焔来を守れない弱い自分なんて、いらない。
──ダン!!
「ッ──…!? …っ、ほむ、ら?」
リュウの顔の真横
突然 焔来が、塀に荒々しく手を突いた。
「…ふ…!? …ッ、ん」
「…っ…ハァ」
次の瞬間に重ねられた唇──いや、押し付けたと言ったほうが正解だろう。
舌を絡めるような余裕はなく
半開きのリュウの口をふさいで、僅かに離れて…また強引にふさいだ。
「…っ‥やめッ て、焔来……!!」
唐突な接吻に、リュウは頭の先まで一気に血が上がる。
突き返そうとした……だが、その腕には少しの力もはいってくれない。
「馬鹿やろ! リュウ…っ」
「…、‥…はぁ…ッ」
「俺はお前を助けに来たんだぞ!? なんで…っ…お前追いて逃げるんだよ!」
「…駄目だよッ─‥焔来、今の僕に‥‥ン、さわっ…ちゃあ…!」
リュウは必死に焔来をなだめた。
今の自分がどれほど…ぎりぎりの状態で、ぎりぎりで自我を保っているのか
焔来には理解できているのだろうか?
とにかく焔来から離れなければ
「…わか って‥ッ‥焔来っ、……今は‥!!」
「……」
「…ハァっ‥…苦しいんだ…」
「──…だったら…!」
「…!」
「だったら俺が…っ…、楽にしてやる……!!」
焔来の顔が離れる。
「‥‥!?」
彼はリュウの足元に腰をおろし
硬く張りつめたリュウの肉竿を着物の合わせから探りだし、躊躇なく口腔へ含んでしまった。
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