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世紀末。βの恋。
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Ωがどういうものか、俺は正確にはわかってない。
ただわかってるのは砂川笙がαであり、宮夏樹と出会ってしまったということ。
それで充分だった。
砂川笙。
砂川財団の御曹司。
誰もが憧れる、知的な美形。
運動神経も抜群で、音楽の素養にも溢れてる。
誰もが笙の一番になりたがってる。
俺は特に。
なのに選ばれたのは、よりにもよって宮だったのだ。
奨学生。
本来なら、うちの学校になんか来れる家柄じゃない。
でも宮は、卓越したヴァイオリニストの才能があって、それで特例入学が許されたのだ。
笙も見事なソリストだ。
その笙が、宮を選んだ。
二人が合わせると、メロディーは生き物のようにうごめき出す。
俺は音楽を視覚で見れる。
二人のコンビネーションは常に、絡み合い、舞いゆく二匹の蝶になる。
絡み合いつつ宙を舞い、絡み合ったまま中空に消えてゆく。
俺も憧れてた砂川笙。
もう誰の手にも墜ちてはこない…
その夕暮れ、俺は部活顧問の命で、地下倉庫へ楽器をしまいに行ったが、あまりにも不運なことに、そこにはなんと宮がいたのだ。
しかもその手には笙のヴァイオリンケース。
貴様ここで何を!!
あ、北代くん、あのね…
と屈託なく俺を見上げた宮から、俺はケースをひったくった。
そしてその、笙の大事なヴァイオリンケースそのもので、何度も何度も何度も何度も宮を殴り続けたのだ。
気づくと宮は完全に動かなくなっていた。
ケースを取り落とす。
外れて落ちたのはネームプレート。
真新しい。
そうか。
宮はこれを笙のケースに付けようと来たのか…
貧しい宮にはこんなものくらいしか、笙に差し出すことができない。
それでも寵愛の礼がしたくてここに。
こんな目に遭うとも知らずに。
知らずに…
北代。
ここで何してる。
ああ。
笙の声だ。
地下倉庫へ下りてくる。
もう数歩で、かれは完全にこの室内の人となり、俺のしたことを知ることになる。
つがいを殺されると、残されたつがいは抜け殻となって死ぬという。
ああもうこの際だ。
笙をむさぼってしまおう!
と決めたその瞬間…
ズウウウウン!という地響きとともに建物が大きく震え出したかと思うと、うねるように地面が暴れ、建物全体が破砕した。
俺(と宮の遺骸)は地下倉庫の床に強く押し付けられ、階段途中にいた笙は激しく吹き飛ばされ、降るほどの建物瓦礫の下敷きになったようだ。
南海トラフ?
富士山噴火?
恐怖の大王の襲来か!?
何ともつかない破滅の足音を聞きながら、俺が最後に見たのは、瓦礫の下敷きになりながらも、宮の遺骸へと手をのべる笙の姿だった。
俺が殺したと気づくだろうが、どうせ三人とも助からない。
Ωを失ったおまえが狂い死ぬところを見ずに済むなんて、俺はツイてる。
めちゃめちゃツイてる。
そう思ってる俺の頭めがけて今、大きな瓦礫が落ちてくる。
衝撃に備えるみたいに、俺はしっかり目を瞑った。
ああ。
今日まで七の月だ。
確かに七の月だ…
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