アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
3.
-
かつてないほど、爽やかな目覚めだった。
ずっと重かった頭は嘘のように軽く。靄がかかっていた思考も明瞭で。
そんな綺麗に整えられた精神状態で最初にみたのは、黒澤の寝顔だった。
規則正しく上下する胸元に、微かに動く睫毛。
それに勝手に高鳴る心臓が異質で、揉み消すように強く擦りあげる。
外がほの暗いことからして、早朝だろうか。
腹の上に置かれたあたたかな重みを退けるだけで、鈍く痛む内側。
そんな抗えない本能が、俺は恐ろしくて仕方がない。
「え、大河さん!?一週間ほど有休をとったと伺っていますが…」
「悪いな、手違いだ」
「けど、昨日体調が悪かったと伺っています。ご無理はなさらずお休みになったほうが…」
「…働いていたほうが、気がまぎれるんだ」
引きそうにない相手に、ふと寂しそうに言葉を落とせば、案の定相手は言葉をつまらせた。
「…どうしても無理か?」
少し瞳を揺らしながら問えば、早くあがることを条件に、職場にいることを許される。
Ωの典型的特徴として知られる、整った容姿。
昔は相手の情欲を煽るくらいしか使い道がなかったものだが、社会で生きていくうえでも案外使えると知ったのはいつだっただろうか。
便利でいいじゃないか。
そう笑い飛ばして見せた彼の表情は、今もまだ瞼の裏に鮮明に焼き付いている。
気を紛らわすように書類を捌いていれば、ふとポケットが断続的に震えていることに気が付いた。
取り出し確認した幾多の不在着信に、スマホの電源を落とす。
こんな風に重ねて連絡が入るのは初めてのことだ。
やはり、はねのけ続けてきたその腕の中に、納まってしまったからか。
後悔したところで、何の意味もないけれど。
それでも沸き起こる苦い思いを消すことだけは、できそうになかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
4 / 18