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古びた無線機は兄弟の絆
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『この花菱自治区において、治安の悪化が深刻な問題となっています。これに伴い、自治組織は新たな条例を施行して……』
テレビから流れてくる荒い音声をタマキは無線越しに聞く。自分の小さなアパートの扉を開けて、鍵をかける。小さく吐息とつき、身につけていた銃を射撃ベストから外していく。入っているのは質の悪い弾丸だ。暴発しては怖いので、弾倉を抜き取り、古びたチェストの上に置き、そのままベットに飛び込む。
「……疲れた」
そう言って、シーツの上で顔を擦りつける。
「こういうのには慣れないんだ、俺は」
『そう? 僕はよく出来ていると思うけど、兄ちゃん』
無線の向こうからクスクスと笑う声が聞こえる。そのどこか甘さすら感じる男の低い声に、タマキは幸せそうに目を細める。
「そうか、ならよかった。灯」
そして、腕に巻いていたナイフを取り外し、乱暴に床に投げ捨てる。重い腕帯が床の上で少し跳ねる。
『兄ちゃんが護衛なんて、びっくりしたよ。似合わないね』
「そうだろう。荒事は苦手だ」
『……僕の知っている兄ちゃんはずっと机で勉強していたガリ勉だった』
懐かしむように灯が言う。
「それは今も変わらないさ」
タマキはそっと目線を部屋の隅にやる。そこには雪崩が起きそうな位に積み上げられた本の山がある。数学や歴史といった高校生程度のものから、バース論といった小難しいものまでそれは多岐に渡る。何度も目を通したそれは本の端がくたびれてきている。
「勉強しても、勉強しても足りないさ。そうじゃなきゃ、俺たちはいつまでも一緒にいられない」
タマキは近いようで離れた場所にいる弟に、そのもどかしさを伝える。タマキはβそして、灯はΩだ。貧困層の生まれの二人は、物心つく頃には引き離されてしまい、別々に暮らしている。
『そうだね。国はよりバース性による階級制を強めようとしているし』
「ニュースを見たか」
『ひどい話だ。治安が悪いのは、僕たち低階層の人間のせいか。衆愚なんてよく言えたものだ。この世界を牛耳ているのはαたちの方だ』
「……世界は変わらないな」
昔と同じく、生きづらいままだ。シミだらけの天井を見ながら、中古の無線機で灯に話しかける。
「けど、もう少しだ。もう少しで、お前を助け出せる」
灯が一瞬、息を飲む。それから、心の底から嬉しそうな声を出す。
『待ってるよ、兄ちゃん。愛している』
「ああ、俺も愛してる」
もう少しだ。もう少しで、タマキは可愛い弟を取り戻すことが出来る。その予感を確信に変える為、タマキはベットから起き上がり、机に向かう。そして、本を積み上げると小さな裸電球で文字を追い始めた。
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