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「おまたせしました」
黒いワイシャツの上からグレーのパーカーを羽織っただけで帰る支度は済む
やけに袖が長い
サイズがあってないな
「ううん
昴は?」
「みんなでトランプやるから店閉めるって」
「たのしそうだね」
やれやれと首を降って答えたトキは厨房の方にお疲れ様ですと言ってから出口に向かってった
「車、どこ停めてんすか」
「あっち」
「……わかんないんで先行ってください」
外に出ると夏の終わりの湿った空気を思い切り吸い込む
夏の夜は重たい
薄着なのにいつも何故かそう思う
「こっちー」
歩き姿がしなやかで本当に猫みたいだ
髪綺麗だな
「……意外といい車なんですね」
「まぁ、働いてるしもういい大人だし」
「へぇ」
「トキくんは何歳なの?」
「俺は22歳ですよ」
「若、こわ…」
「何が怖いんだよ」
「ははっ、ごめんごめん」
「俺星見たい」
「星?」
「山登ると星綺麗に見えるから」
「どこでもいいの?」
「どこでも、いい」
「わかった」
猫に星の組み合わせは良く似合う
瞳を薄く閉じて瞼をふるわせるその寂しげな顔もどこか優雅で綺麗だった
しばらく車を走らせているとトキくんは眠ってしまった
時折何かを呟いてすーすーと寝息を立てている
『〜〜から…〜〜〜〜してる、の〜
わたしの〜〜いい〜〜ひとりには〜〜〜』
唐突に思い出したのは昔誰かが歌っていた歌
「あなたをひとりには、しないから…
置いて、行かないで…
愛してる、の…わたしのかわいいひと
ひとりにはしないから…」
「…ねぇそれなんの歌」
「足跡
起こしちゃってごめんね」
「…ううん。蒼葉さん歌上手いんだね
俺もその曲知ってる気がするよ
ねぇ俺も歌ってみるからこの歌何の歌か当ててみて
傷つけるより、傷つくほうがいいって
弱虫かな…
夜は、自己嫌悪で忙しい
夜は、自己嫌悪で忙しいんだ」
唐突に始まった謎の余興に戸惑いが隠せないまま考える
寝ぼけてるのかな
「夜な夜な夜な」
「なんで知ってんの
こわ。」
「そんなこと言われたって」
こちらを見つめる彼の子供みたいな顔
なんだか綺麗だと感じた
「蒙昧の文字は書けねど、享楽は廉価
なべて迷信と笑え…因果のストーリー」
「パレード」
同世代の子は誰も知らないだろうに
「あ、これ知ってるんだ
じゃあ映画の方は見た?」
「うん
ちょっと怖かった」
「俺はすごく憧れた
あの夢の中の世界で壊れちゃいたいなって」
今になってようやく幼い顔が見える
今はきっと、俺の方が年上っぽく見えるだろう
「今も思ってる?」
「俺は、いつでも思ってるよ」
夢を見ているような
この世界とは別のものを見ているような目で視線を彷徨わせる
小刻みに揺れるまつ毛が綺麗に見えた
「そう。
ねぇさっきなんの夢を見てたの?」
「……なんの夢だろう
ちゃんと眠れたの久々だからわかんない」
「不眠症なの?」
「んー、そう
俺寝れないんだ」
大切な秘密を打ち明けるように
そっと囁くような声でそう言って
長すぎる袖を口元に持って行ってクスリと笑う
「そっか」
「ねぇ蒼葉さん」
「どうしたの?」
「俺お酒飲みたい
やっぱ星は今度でいいや」
今度という単語に思わず嬉しさが込上げる
「あ、じゃあどこかお店行く?」
「俺人がいるとこ苦手」
「そっか
じゃあ公園で缶チューハイでも飲む?」
「夏だから蚊いるじゃん」
「そっかー、じゃあうちくる?」
きっと来ないだろう
なんて頭の端っこで考える
じゃあどこならいいか
「え?」
「んー」
「そうだね
そうする
お酒は蒼葉さんが買ってくれるんでしょ?」
「…もちろん」
同意されたことに内心激しく驚いたが野良猫に懐かれたような、
なにか妙に気分がいいので別に悪いことじゃないなと思った
「わーい。」
「棒読みだなぁ」
「これでもちゃんと喜んでるよ
人と喋って楽しかったの久しぶりだもの」
「そっかぁ
よかった。」
胸の内が柔らかく暖かくなる
「蒼葉さん
俺と曲の趣味合うよね」
「確かに」
「今度カラオケでも行く?」
「いいね」
今度が増えていく
それをひとつ実現することが出来たなら
今より随分暖かな気持ちになれるだろうな
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