アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
千里眼の老婆7
-
「…………なるほど。心得よう」
一瞬だけ表情を強張らせた王は、次いで深々と頭を下げた。
他でもない、これ以上ないほどに心を砕いてくれたのであろう老婆に、感謝の気持ちを表明したのである。
老婆は確かに王を気に入ってくれているが、恐らく彼女には彼女の立場や事情がある。だからこそ、王を含むこの地の人間への過度な干渉は避けているのだろう。だが、たった今王に差し出された言葉には、彼女が引いている一線を越えてしまうに十分すぎるだろうほどの情報が含まれていたのだ。
暫く、という単語に込められた意味は、恐らく二つある。一つは、十年前に急に帝国の魔導が発展したことと関わりがあると伝えるため。もう一つは、そんなにも長くの間、良くないものとやらが帝国に存在し続けられたという事実を知らせるためだ。そして極めつけは、人の手には負えないという一言である。
つまり、老婆の言葉に含まれた意図を推測すると、
(十年ほど前から帝国に加担している何者かが、帝国の魔導を発展させた。そしてその何者かは、人の手には負えぬ力を持つ者。それこそ、ドラゴンに匹敵するか、それ以上か……。どちらにせよ、守護装置である我々の手に負えない生き物が十年もの間関わっていたというのに、神が干渉してくる様子はなく、事態はどんどん悪化しているということになる。では、神は何をしているのか。我々が思っているほど万能ではないか、そもそも所詮は防衛装置に過ぎない我々を守る気などないか、……もしくは、干渉できない事情があるか……。最初の可能性は低いと思うが、今の段階でそこまでの判断はつかない。だが、少なくともこれで我々の前提は崩れたな。神の決定は絶対ではない。……いや、待て。寧ろこれは、神が下した絶対の決定を覆し得る生き物が存在する、と考えるべきか? ……であれば、良くないものというのは……)
そこまで思案したところで、王は深く息を吐き出した。
考えるのはやめだ。老婆がその生き物を人の手に負えないものだと言うのであれば、それはその言葉の通りの意味である。王がここで思案に暮れたところで、事態が好転することはないだろう。
「ここは逆に、十年も時間があったというのに大した動きがなかったことを喜ぶべきか」
ふっと微笑んでそう言った王に、老婆は何も言わなかった。だが王には、その表情が少しだけ緩んだように見えた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
9 / 216