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天ヶ谷鏡哉4
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「何をそんなに驚くことがある。懇切丁寧に教えてくれた上、魔術鉱石とやらまで貸してくれたのはアンタだろう?」
『彼』はそう言ったが、実際は少し違う。グレイが教えたのは本当に基礎の基礎にあたる魔術で、今回『彼』が発動させた魔術に関しては、座学のときに一度見せたことがあるだけだ。にわかには信じがたいが、恐らくはその一度で術式を覚えたのだろう。あのときは魔術具を使わずすべての式を描いて見せたから、理屈の上ではあり得る話である。だが、だからといって覚えたての魔術を実戦で使用できるかと言うと、そう甘いものではないのだ。戦闘の最中で魔術を組み上げられるほどの集中力を保つのは、想像するよりもずっと難しいことだ。事実、天ヶ谷鏡哉は平常時ですらかなり苦戦していた。だが、『彼』にとってはそうではなかったのだろう。
(厄介だな。……だが、オレが見せたことのある魔術は基礎的なものだけ。それならどうとでも対応のしようはあるが)
再び向かってきた『彼』に対し、次の一手をどうすべきかと考えながら構えたところで、突然部屋のドアが開いた。
驚いたグレイがドアの方に視線をやるのと、『彼』が握った硝子を開いたドアの向こうへと投げるのがほぼ同時だった。
ドアの向こうにいる人物と『彼』が投げた硝子片とを認識した瞬間、何かを考える前にグレイは驚異的な速度で魔術式を描き上げていた。それこそ、ほとんど脊髄反射のようなものだったのだろう。
硝子片を越える速度で奔った一筋の風が、硝子片を撃ち抜いて砕く。
「……喧嘩、ですか?」
砕かれて散っていく硝子の粒に少しだけ驚いた顔をして呟いたのは、レクシリア・グラ・ロンター宰相だった。
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