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天ヶ谷鏡哉17
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そんな二人の心情を知っているのか知らないのか。王は暫し思案するような素振りを見せた後、ああ、と言って『アレクサンドラ』に向かって微笑んだ。
「根拠だとか証拠だとか、そういうものが必要な難しい話ではない。キョウヤと話し、お前と話し、お前たちの役割を知った。そしてお前の話を聞く限り、お前たちはそれぞれがそれぞれに思考し、自身が真とすることを実行しているのだろう。だからきっと、私はただ、そんなお前たちを個々の生命として認識しているだけなのだ。そしてひとつの命である以上、思い通りにはいかないのもまた道理だろう?」
魂がひとつだろうと、作り物だろうと、その身体に入っている人格の全てを個としての生命と認めようと。王が言ったのはつまり、そういうことだ。そして『アレクサンドラ』が王の言葉の意味をはっきりと理解しきるよりも早く、『アレクサンドラ』とグレイは、どこかで何が割れるような音を聞いた。
その瞬間、『アレクサンドラ』が纏っていた空気が一変する。王は勿論のこと、レクシリアもグレイも、今度はそれがどんな現象だかはっきりと認識することができた。『グレイ』が現れたのだ。
突如表出した『彼』は、凄まじい形相で王に飛び掛かった。それを、レクシリアが咄嗟に風の魔法で拘束する。
身体を縛る風を振りほどこうともがきながら、『グレイ』は王に向かって叫んだ。
「オレたちに一体何をした!?」
まるで憎悪の全てを込めるような声は、いっそ呪いじみていた。しかし、それを正面から受け止めた王は、僅かに目を細めて首を傾げる。
「なんのことだ?」
「とぼけるな! お前が、お前のせいで! ちようが!!」
「いいや、私は何もしていない。ただお前たちの一人と会話をしていただけだ」
落ち着いた声でそう諭した王だったが、『グレイ』の興奮が収まることはない。これは時間をかけても無駄だと判断した王が、『グレイ』に歩み寄る。そして王は、もがく彼の右目を覆っている眼帯をそっと外し、至近距離でその異形の瞳を見つめた。
途端、見る見るうちに少年の表情が蕩けていく。どこかぽーっとした顔で王を見つめていた少年が、小さく唇を開いた。
「…………きれい……」
そう呟くと同時に、少年が意識を手放す。くってりと力が抜けた少年を見て、王はレクシリアに魔法を解くように指示した。
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