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ロステアール・クレウ・グランダ1
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あの子が泣いている。淋しい、苦しいと、泣いている。
それは迷い子の泣き声のようで、しかし怨嗟が籠められた呪いのようでもあった。けれどきっと、この子は嘘偽りなく、心の底から慟哭している。どうしてだか、それだけは判った。
いたいよ。こわいよ。つらいよ。さみしいよ。ねぇ、どうしてぼくをおいていくの。いっしょだって、やくそくしたのに。
あの子の震える喉から、そんな言葉たちが零れ落ちた。ああでも、きっと、あの子の言っていることは何ひとつ間違っていないのだ。裏切ったのはこちらで、手放したのもきっと、こちらからだったのだから。
いかないで。いかないで。
ああ、あの子の声が遠ざかっていく。誰よりも愛おしくて何よりも守ってあげるべきあの子が、遠くへと離れてしまう。
張り裂けそうに胸が痛んだのは、きっと罪の証だ。けれどそれでも、この腕も足も動いてはくれない。遠ざかるあの子の泣き声に、ただの一声も返すことができない。
ぼくをひとりにしないでよ……、きょうや……。
遠くなっていく声は、きっと最後にそう言った。けれど、この胡乱な頭はそれすら思い出すことができないのだ。
あの子とは、一体誰だったのだろう。
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