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ロステアール・クレウ・グランダ3
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「それは、何に対する謝罪だろうか」
凪いだ水面のような穏やかな声が、少年の耳を優しく撫でる。たかだかそれだけのことだったのに、少年は何故か、泣いてしまいたい気持ちになった。
「……僕、とても汚い、のに、……こんな、貴方みたいな、綺麗な人に、」
愛しているなどという言葉を吐かせてしまうなんて。
それが罪であることなど、とうの昔に少年は知っていた。知っていて、王に進言することができずにいた。それは、王の好意に背くようなことを言うのを恐れたからかもしれないし、もしかするとそれ以外に理由があったのかもしれない。けれど、そんなことはもう関係なかった。理由がどうあれ、少年は結果的に王を裏切ってしまったのだろう。
何故なら、王は少年がどれほど汚くどれほど醜い存在なのかを知らなかったのだ。そして、少年はそれを王に伝えられなかった。王が与えてくれた真摯な言葉に向き合いたいなどという欺瞞が、こんな自分でも愛されることが許されるのかもしれないという甘えが、この事態を招いたのだ。
少年が犯したこれ以上ないほどの裏切りという罪は、今こうして己の身に返ってきた。
王はきっと、少年が想像するよりもずっと激しく落胆したことだろう。それはそうだ。自分が愛した相手がこんなにも醜く、生まれた価値すらない存在だったなんて、あまりにもあまりだと、少年だって思う。
王に対してこの上ない罪悪感を抱くと同時に、少年はもしかすると打ち首になってしまうのではないかという恐怖にも震えていた。醜い自分は、この期に及んでなお己の命に縋ってしまうのだ。本当に、救いようがない。
断頭台の前に立たされた囚人の心地でいる少年は、ただただ俯いて、王の唇が罪状を紡ぐときを待っていた。
「……ふむ。まあ、この際お前が汚いかどうかは置いておこう。お前の生い立ちを考慮するに、私が口先だけで何を言おうと、お前の考えを変えることは容易ではないだろうからな。幼い子供にとって、親とは世界そのものだ。世界が相手では、さしもの私も分が悪い。……それでは、こうしようか」
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