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異変14
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ペンと絵の具の準備を整えた少年が、椅子に座って机に向かう。色合いや形、大きさなどの全体的なバランスを整えつつ、自分がぎりぎり彫れるくらいの緻密な模様を加えていくこの作業が、少年は好きだった。
そういえば、あの赤の王と会って間もない頃は、こうしてデザイン画を描く時間すら取れなかった。なにせあの王、ほとんど毎日のように店に入り浸っていたものだから、落ち着いて作業をする暇がなかったのだ。最早客なのかどうなのか判らないような存在だったし、気にせず机に向かっていても良かったのだが、そんなことをすればきっとあの王は覗き込んでくるのだ。そして、いやぁ店主殿は素晴らしいデザインを描くなぁとかなんとか言ってきたのだろう。想像するだけでげっそりしてしまう。
他の人がどうかは知らないが、少年は自分の作業を誰かに見られるのがとても苦手だった。そもそも注目を浴びるのが苦手な性分である。誰かに見られながら作業しては、恥ずかしいやら居心地が悪いやらで、普段はしないようなミスをしてしまいそうだ。
(今ここにあの人がいたら、絶対に僕が何を描いてるか覗いてくるだろうなぁ……)
そういうことをされるのは好きではないし、それくらいのことは判りそうなものだが、何故かあの王は少年のパーソナルスペースにずけずけと入ってくるのだ。
(最初から随分親し気に接してくる人だったけど、あの頃は僕が嫌がってるの判ってた気がするんだよなぁ。……でも、最近はどうなんだろう……)
赤の王は他人の心を読むのが得意だというし、実際に少年の胸の内も何度も読まれているのだが、どうにも最近の王は違うような気がするのだ。少年が割と本気で遠慮したいと思っていることをしてくるときも、王は少年が喜んでいると思い込んでいるようだった。まさか自分が内心で嫌がっているのを見透かして楽しんでいるのか、と思わなかったこともないが、恐らくそういうことをするような人ではない。では、なんだってああも遠慮なく少年の困るようなことばかりするのか。
(……やっぱり、変な人だなぁ)
実はこれは、愛した相手の心の内を見透かすのは不誠実な行いである、という勝手な基準に基づいた判断の元、少年の考えを読むことを王が意識的にやめているから生じている事態なのだが、少年がそんなことを知る由はない。
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