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水の呪い21
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防戦気味に敵の猛攻に対処していた王の耳元を、その場には不釣り合いな涼やかな風が撫でた。レクシリアの言伝が届いたのだ。
(思っていたよりも早い。これは僥倖だな)
きっかりと矢の倍の速度で駆けて来たのだという風の乙女の言葉は、恐らく事実だ。王には絶対に不可能な技だが、レクシリアならばそれくらいの調整はやってのける。それさえ判れば、後は王宮からここまでの距離を考慮し、矢が到達するおおよその時間を予想して動くだけである。
「さっきから押される一方じゃあないか! まさかもうバテたなんてつまらねぇこと言うんじゃあないだろうな!」
そう叫びながら女が繰り出した重い一撃をなんとか剣でいなした王は、そのまま横に跳び退って彼女から距離を取った。
「あまり馬鹿にして貰っては困るな。この程度で参るような鍛錬はしていない。……それに、勝負はここからだとも」
「ほお? まだ何か見せてくれるって?」
王の言葉に、女が嬉しそうな表情を見せる。そんな敵の様子に、王も余裕を窺わせる笑みを返してみせた。
とは言え、息ひとつ上がっていない女に対し、王の方は確実に疲労が蓄積していた。エトランジェたる女の種族までは判らないが、人間よりも上位に座す種であることは間違いないだろう。種族の差というのは、努力でどうなるものではない。その上、彼女の持つ水の呪いは、王にとっては天敵のようなものである。極限魔法クラスの魔法を使えば戦況も変わるのだろうが、高威力の火霊魔法は広範囲に影響を及ぼすものばかりだ。それこそ、先程の水の呪いを打ち破ったときのように遥か上空に向けて放つでもない限り、あたり一面の地形を大きく変えてしまうだろう。特に王が操る火霊魔法は、とにかく調整が利かない。故に王は、可能な限り自国の領土でこの手段は取りたくないと考えていた。
こういった制限のある中、上位種を相手に王がここまでの善戦を見せているのは、奇跡のようなものである。
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