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水の呪い24
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再び吹いた風が、柔く頬を撫でる。風の乙女による合図だ。そしてそれは、王が想定していたタイミングで訪れた。
王が視線を向けた先。異形の女の向こう側。夕陽を背に受けて飛来する一矢が、炎と水の衣を脱ぎ捨てその姿を露わにする。
王の目がそれを捉えた瞬間、地霊と火霊が色濃く王の全身を駆け巡った。王は何も指示していないし、しようともしていない。だが、彼にはそれが可能だった。
それは、ヒトの身では決して至ることのできぬ境地。精霊そのものを統べることでしか到達できない極み。だからこそ、女はその可能性を一切考慮しておらず、そしてそれこそが決定打になった。
首都にてレクシリアが放った矢が姿を見せたその瞬間、これまでよりも遥かに速く重い一撃が、女を襲った。ほとんど考える暇など存在しない中、その一撃に対して迷いなく回避行動が取れたのは、彼女の戦士としての本能のなせる業なのだろう。
彼女は著しく優れた戦士であるが故に、王の一撃を受け切れないことを瞬間的に悟ったのだ。恐らく、今の刃が彼女に到達していたならば、勝負は決まっていた。それほどまでに、磨き抜かれた必殺の技であった。
だが、当たらなければそれまでだ。確かに優れた攻撃ではあったが、女の虚を突く形だったからこそ通用した技でもある。更に速く強く動けるというのならば、女の方もそう心得て対処すれば良いだけなのだ。だからこそ、驚きはしたものの、彼女が焦ることはなく慄くこともない。
そして、そんなことは王も十二分に承知していた。
女が王の一撃を躱した瞬間、彼女の腰につけられている飾り紐が大きく外に揺れる。そしてそのタイミングを狙ったかのように、背後から橙色に輝く矢が駆け抜けた。
「っ!?」
女が僅かに目を見開く中、大地の息吹を存分に纏った一矢が、飾り紐の先にある石を貫く。
「……私の、勝ちだ」
王が笑みを深めると同時に、パキン、と軽い音を立てて、水の色を湛える石にひびが入る。そして直後、それは弾けるようにして砕け散った。同時に、女が纏っていた水の気配が霧散する。呪いと守護の根源たる石が砕けたことにより、彼女の矛と盾を担っていた水の守りが効力を失ったのだ。
そしてその好機を逃すまいと、火霊がぶわりと炎を膨らませ、彼女に襲い掛かる。だが、
「待て!」
突然の制止に、火霊は一瞬戸惑ったように揺らいだが、命に従ってすぐさま炎を収めた。そんな王の行動に、女が目を細める。
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