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水の呪い27
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「そんなことより、貴公、名はなんと言うのだ? これほどまでに優れた戦士にはそうそう出会うことなどあるまい。是非名を教えて貰いたい」
「それを教えてアタシに何の得があるってんだ」
面倒くさそうに言った彼女に、しかし王は食い下がる。
「それでは、私の身体が空いたときに再戦することを約束しよう。勿論、然るべき場所を用意する。今回は、私にしても貴公にしても不完全燃焼が目立つからな。今度こそ、互いに本気で手合わせをしようではないか」
「よっしゃ乗った!」
王の提案に、間髪入れずに女が片膝を打つ。そして彼女は、王に向かって嫣然と微笑んだ。
「アタシの名前は蘇芳。あちこちを放浪するのが趣味の傭兵崩れみたいなもんだ。こう見えても、アンタみたいなひよっこよりも三百は多く生きている」
「スオウ殿か。よろしく頼む」
浅くではあるが会釈をした王に、蘇芳は一瞬だけ驚いた顔をした。赤の王は気さくな人柄だと聞いていたが、目下の、それも先ほどまで敵対していた相手に対して、こうも簡単に頭を下げるとは思っていなかったのだ。
「変だ変だとは聞いてたが、本当に変な王様だなぁ」
「私に関する噂は、随分と不名誉なものが多いと見える」
そう言って笑ってみせた王に、蘇芳はやはり呆れた顔をした後、すっと真顔になって王を見つめた。
「しかし、王様よ。アンタこんなところで悠長に休んでて良いのか? 判ってると思うが、アタシが請け負ったのはアンタを消耗させて足止めすることだ。その役目は十全に果たせたと自負してる。ってぇことは、今頃帝国の連中は思惑通りに事を進めている筈だぞ」
「だろうな。だが、貴公にこっぴどくやられた火山がまだ息を吹き返しておらん。場合によっては更に炎をつぎ込む必要がある以上、私がここを離れる訳にはいくまいよ。なにせ相当に魔力を削られてしまったからな、離れた場所に対して魔法を使うのはできれば避けたいところだ」
「つまり、やろうと思えば、遠く離れた地にいても火山を復帰させるほどの大規模な火霊魔法が使えるってことじゃあないか。リアンジュナイルの国王ってのは、皆こうも規格外なのかねぇ」
蘇芳の言葉に、王は黙って微笑みを返すだけだった。
「だが、アンタがここを離れられないとなると、ますます連中の計画通りだろうな。奴らが何を狙っているのかまでは知らないが、まずいんじゃあないのか?」
蘇芳に指摘され、真っ先に浮かぶのはあの少年の顔だ。恐らく、帝国の狙いは今回もまた、エインストラたる少年だと予想される。そして、彼を攫う上で最も厄介な障害となるのが赤の王であると踏んだのだろう。よって、王がこの地で足止めを食らうのは、好ましい事態ではない。
王宮で非常事態の第一報を受けたときから、もう随分と時間が経っている。もしかすると既に手遅れかもしれないが、それでも王はすぐさま金の国へ向かうべきだろう。
だが、王はそうしようとはしなかった。
そして、王の返答を待つように黙って見つめてくる蘇芳に、ゆるりと微笑みを返す。
「そうだな。何も私が常に傍にいて守ってやることだけが全てではないと、そう言っておこうか」
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