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窮地3
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何故この人がこんなところに、と、そう思うことすらできず、ただただ自分を見下ろす母を見る。
振り乱した長い黒髪、血走った目、幽鬼の如き青白い顔。正気の見えぬ瞳が、少年を捉えている。少年の存在そのものすら含む一切を認めないまま、憎悪と嫌悪と拒絶を混ぜて練り固めたような黒い目で、少年を見下ろしてくる。
何もかもを否定するその瞳は、まさしく呪詛のような拘束力を以て少年の動きを縫い留めた。そうして手足が氷になってしまったかのように冷えて固まる中、かろうじて唇から落ちた言葉は、母としての彼女に対する呼びかけだった。
「お、かあ、」
しかし、彼女がそれに応えることはない。それどころか、少年の声はいつだって彼女をより激高させるだけなのだ。
「私を母親のように呼ぶな! 気持ち悪い!」
心底からの憎しみを吐き出されると同時に、固く握りこまれた拳が少年の頬を弾いた。皮膚の内側がじんじんと熱く痛み、少年は呆然として母親を見る。
そんな彼の表情の、何が気に食わなかったのだろうか。母親は少年の腹に容赦のない蹴りを入れ、彼を地面に転がした。そしてその頭を乱暴に掴んで、何度も何度も地面へと叩き付ける。
「お前さえ生まれなければ! 私があの人に見捨てられることも! なかったのに!」
頭がガンガンと割れるように痛む。うっすら開かれた目に映る世界はぐるぐると回り出し、胃が痙攣して喉の奥から内容物がせり上がってきた。そのまま口元からごぽりと溢れ出た吐しゃ物が、地面に撒き散らされる。その様を見た母は、より一層強い力で少年の顔を地面に押し付けた。
「汚い汚い汚い汚い!!」
背中に、絶叫に近い悲鳴が上がるほどの熱い何かが押し付けられる。衣服が皮膚に張り付く嫌な感じと、ひりつく痛みと、肉が焦げる匂い。熱された鉄を押し当てられたのだと少年が理解するまで、僅かな時間を要した。
ああ、さっきの痛みも、この痛みも、全部知っている。全部、母が自分に与えてきたものだ。母が少年に与えた、唯一のものだ。
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