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窮地7
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恐らく今まで見ていたものは、彼女の魔導による幻影だったのだろう。それを認識した『グレイ』の動きは速かった。ポケットに忍ばせていた魔術鉱石を握り締めて術式を描き、炎の魔術を発動させる。勿論、大した威力は期待できない簡素な魔術だ。悠長に魔術式を構築している暇などないこの状況で咄嗟に発動できる魔術など、たかが知れている。だがそれでも、相手の気を逸らせればそれで良い。現状『グレイ』が最も優先すべきなのは、この場からの離脱なのだ。
敵が油断している隙をついて逃走を図ろうという『グレイ』の目論見は、事実として非常に有効な一手だった。幻惑の中に少年の精神を閉じ込めているという状況に、アンネローゼは勿論のこと、彼女の部下たちも油断しきっていたのだ。
『グレイ』が生み出した炎は、小規模ながらも的確にアンネローゼに向かい、虚をつかれる形となった彼女に襲いかかった。それを見届けることなく立ち上がって駆け出した『グレイ』の耳に、アンネローゼの悲鳴が届く。だが、あの攻撃が当たっていようといまいと『グレイ』には関係ない。
敵に損失を与えられたのかどうかは知らないが、とにかく離脱には成功した、と、『グレイ』がそう判断したそのときだった。
「よくも私の顔に傷をつけてくれたわねッ!!」
"すぐ後ろで"、アンネローゼの声がした。
『グレイ』が咄嗟に振り返ろうとするよりも早く、アンネローゼの手が『グレイ』の髪を掴む。そして彼女はそのまま、力任せに『グレイ』を引き摺り倒した。
「ッ!?」
突然のことに受け身を取り切れなかった『グレイ』が、背中から地面に倒れ込む。衝撃で息を詰まらせた『グレイ』を、憤怒の表情を浮かべたアンネローゼが見下ろしてきた。彼女の頬には、僅かに焼け爛れたような痕があった。きっと『グレイ』の魔術を避けきれなかったのだろう。
しかし、確かにある程度の距離は稼いだはずだ。こんな一瞬で埋められるようなものではない。だというのに、何故彼女はここにいるのだろうか。
そこで思い出されるのは、彼女の言葉だった。
(ウロ様のお薬、だったか)
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