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窮地21
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「風霊! 可能な範囲でこの霧を払え!」
カリオスがそう叫ぶと同時に、突風が吹きすさんだ。金の国の国民は魔法適性が低い傾向にあるのだが、どうやら師団長たる彼は例外らしく、戦闘時に有効となり得るレベルの魔法が扱えるようだ。
風霊が起こした風が靄を吹き飛ばしていく中、険しい表情のまま前を睨んだカリオスが口を開く。
「申し訳ない、見誤りました。どうやら私が思っていたよりもずっと厄介な事態のようだ」
「あの、どういう……?」
「魔導とは、魔物を屈服させて無理矢理従わせる外法のようなもの。故に、魔物は使役されている期間もずっと憎しみを募らせていくのです。増してや帝国は、別次元から召喚した魔物を魔導によって縛っている。故郷から引きずり出され、一人知らない世界で己の意思に反して使われるなど、魔物側の怒りと憎悪は想像を絶するものでしょう」
言われ、少年は頷いた。カリオスの言う通り想像すらできないが、それはきっととても悲しいことなのだろう。
「あの魔物は、まさにそういった怒りと憎しみを募らせた成れの果てのような状態なのです。恐らくは、使役者である少女とやらの死の直前に、魔導契約が壊れたのでしょう。本来であれば使役者の死と使い魔の死は同義の筈ですが、契約が破棄されたとなれば話は別だ。そして、使役者から解放された魔物の多くが望むのは、使役者への復讐です。しかし、使役者たる少女が既に死んだとなると、その矛先は人間という種そのものや、ときに世界自体に向かう可能性さえある。そしてこの世界があの魔物にとって異邦であることを考慮するならば、今回のケースは後者である可能性が非常に高いと言えます。……あの方が身を引く訳だ。私たちが今対峙しているのは、この世界そのものに対してこの上ない怨嗟を募らせた未知の魔物なのですから……!」
風に押し流された靄が、ゆっくりと薄れていく。しかしそれでもなおうっすらとした靄に覆われたその向こうで、無数の影が揺らいだ。
いつの間にか、少年とカリオスの周囲は、何十体にも及ぶ巨大な貝の群れによって取り囲まれていたのだ。
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