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蜃気楼の攻防6
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少年には自覚などないが、その理由は本当の主人格たるちように起因するものだった。ちようによって生み出された人格は全て、ちようのために存在するのである。それは『鏡哉』も例外ではなく、だからこそ彼は死を選ぶことができない。誰よりも何よりも守るべきちようを殺すという選択肢など、存在しないのだ。
右目を晒すことは絶対に避けたいが、死を選択できない以上生存を模索する必要があり、そのために右目を晒すことが必須だというのならば、少年にはそこから逃避することなどできない。他人には理解できないのかもしれないが、少年が置かれた状況は最悪だった。本当に崖っぷちまで追い詰められた精神が悲鳴を上げ、今にもこの場から逃げ出してしまいたくなる。
本来であれば、とうに『グレイ』か『アレクサンドラ』が主導権を奪い取っているところだ。無論、彼らもそれを何度も試みた。だが、やはり人格の入れ替えが上手くいかないのだ。もしかすると、先ほど長時間『グレイ』が表出していた影響なのかもしれない。
とうとう過呼吸のような症状まで出始めた少年は、しかしその間にもカリオスが必死に戦っているのを目にして、ようやく覚悟を決めたのか、弱々しくこくりと頷いた。そしてその震える手が眼帯へと伸ばされ、上の縁に指が掛かる。そのまま彼は、勢いに任せて眼帯を剥ぎ取ろうとした。だが、
「……申し訳ありません、キョウヤ殿」
眼帯を外そうとした少年の手を止めたのは、カリオスの左手だった。咄嗟に少年を支えている腕をずらして右手に剣を持ち換えた彼は、空いた方の手で眼帯に掛かった少年の手を掴んだのだ。そして、そのまま震えている手をそっと眼帯から外させる。そんなカリオスの行動に驚きを隠せないでいる少年に向かって少しだけ優しく微笑んでみせた彼は、再び利き手に剣を持ち直して構えた。
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