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〝あさしな かずき〟
「名前、なんて言うんですか」
どうしてそんな事を聞いたのか、自分でも全く分からない。
けれど、そう尋ねた俺に、ちょっと不思議そうな顔をして、サラリーマンの男はそう名乗った。
どういう字だろう、と内心呟いたのを見透かした様に、あさしなさんが紙切れを差し出した。
「こういう字。」
「…あ、ありがとう、ございます」
その名刺には、浅科 和樹 という名前と、商社の名前、部署名、メールアドレスが印刷されていた。
営業部 。
その肩書きを読んで妙に納得出来た。
「お前は?」
「え、あ……」
名刺を見ていたらふいに聞かれて、咄嗟に言葉に詰まった
なんとなく、下の名前を名乗るのに抵抗があった。
「川島 …恵です。」
「めぐみって、恩恵の恵?漢字一文字?」
「そうですね」
「そっか、いい名前だな。」
はぁ?
なんだ、この人
よくそんな言葉をさらさらと……
聞いている方が恥ずかしくて顔が熱くなる
「…なんか顔赤いけど、まだ具合悪い?」
「……や、もう大丈夫です本当に。」
顔を隠す様に俯いて、首を横に振った。
間もなく、電車の到着アナウンスが鳴り響いて、俺は名刺をポケットに突っ込んだ。
ホームに入って来た電車は、大学の最寄り駅の手前までしか行かない便だった。
けれど、その場から離れたかった俺は、浅科さんに会釈して、開いたドアに逃げ込んだ。
動悸がする。
何してんだろう、俺。
なんで名前なんか聞いたんだろう。
自分の事なのに、訳が分からなくて、イライラに似た焦れったさを覚えた。
いつもよりは少ないけれど、それでも密度の高い電車に揺られながら、
あの清潔な匂いがいつまでも残っている様な気がして、熱くなる顔にペットボトルを押し付けて誤魔化した。
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