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「よぉ。」
次の日の朝、駅で俺を見つけるなり会釈してきたその人の顔を、直視出来なかった。
「……おはようございます」
いつもの駅での、いつもの挨拶。
でも昨日の今日で、俺は妙な気まずさに戸惑った。
まるで、オナニーのおかずにしたクラスの女子と、次の日教室で会った時の様な、申し訳ない様な気まずさ。
「何?どうかしたか?」
怪訝そうにする浅科さんに、〝なんでもない〟と言葉を濁すしか出来なかった。
その日も、電車が来るまでの少しの時間を、一人分のスペースを空けてベンチに座って、一緒に過ごした。
「そういや、前から気になってたんだけどさ」
「……何ですか?」
スマホを見ながら返事をする俺に、浅科さんが続ける。
「それだよ、そういうの。」
「…は?」
浅科さんが指さす先には、俺のスマホ。
「川島ってさ、見る度いつもそうやってつまらなそうにスマホいじってて。なんでか不機嫌そうにしててさ。」
「……。」
「こんなに若いのに、何がそんなにつまらないんだろうって、ずっと思ってた。」
……は?
俺が知るよりも前から、俺を見てたって意味……?
「…いつから人の事見てたんですか?」
俺の言葉に、浅科さんが吹き出す。
「ふっ、はは、ストーカーみたいな言い方すんな。…毎朝見かける度に不機嫌そうな顔してたから、なんとなく気になってたんだよ。」
「…はぁ。」
「で?何がそんなにつまらないんだ?」
急に聞かれて、言葉に詰まる。
「……全部つまんない。めんどくさい。」
「何言ってんだよ、二十歳だろ?一番楽しい時だろ。」
「今が一番なら、もう人生詰んでる。」
「はぁ?何をそんな…」
「浅科さんは?自分が二十歳の時にどうだった?」
そう聞いたら、浅科さんが急に真面目な顔になって、沈黙した。
「……まぁ、自分を思い返せば、そうでも無かったかもなぁ」
「…でしょ?そんなもんでしょ、絶対。」
そうだな、と整った顔をくしゃっとさせて笑う浅科さんに、つられて吹き出した。
「何だ、そうやって笑えるんだな。笑ってた方が男前だな、お前。」
ふいに言われた言葉が意外すぎて、咄嗟に言葉を失った。
「……はぁ?馬鹿じゃねぇの」
妙な恥ずかしさを誤魔化す様に、虚勢を張るように強い口調で言った。
「あんたみたいな人に男前って言われたって馬鹿にされてる様にしか聞こえない。」
「違うって。本心で言ってるんだって。」
必死に弁解する様に言う浅科さんが、なんだか面白くて、俺はまたつられて吹き出した。
ふと、
こんな、穏やかな気持ちで過ごしたのは、どれくらいぶりだろう、そう思った。
記憶の中には思い当たらなくて、もしかしたら初めてかもしれないと思った。
「シマぁ、お前今から帰んの?」
最終の講義の後に、正面玄関へ向かって歩いていたところで真木が、後ろから肩を抱く様にして話しかけて来た。
香水の匂いが、鼻につく。
触るな
近づくな、
「帰る。帰るから離せよ。」
強めの力で胸板を押しても、引く気配が無い。
「久しぶりに〝痴漢狩り〟しねぇ?」
「…はぁ?」
こいつ、まだそんな事やろうとしてんのか…
また俺をエサにして、たかるつもりか。
「ふざけんな、やってられるか、あんなの。」
「は?何でだよ、今更。」
「馬鹿馬鹿しくてやってられないっつってんの。」
「何、急に意味分かんねぇ事言ってんだよ。」
押しても引かない真木に焦りを感じて、つい力いっぱい振り払った。
「っ…いって、」
パシッと乾いた音がして、
振り払った手が真木の頬をかすめた事に気付いてハッとした。
「っ、悪い…、」
短く謝って、隙をついた様にその場から離れた。
振り向くな、
近づくな、
近づくと、また流される。
浅科さんとの朝の会話に、穏やかさを感じる様になった事に比例する様に
真木との行為に感じる後ろめたさが、どんどん強くなっていった。
隙間を埋めるように酒を飲んで、セックスして、虚無感が苦しくて、
誤魔化す為にまた酒を流し込んでセックスする。
その繰り返しからもう、抜け出したいと思う様になっていた。
いつの間にか、真木を避ける様になっていた。
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