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振り向けない。
振り向きたくない、
そう思ったのに、両肩を掴んで振り向かされた。
その途端に大きくて温かい感触に目元を覆われて、俺は思わず目をつむった。
「…俺、多分、今すごいみっともない顔してるから、見るな。」
やっと聞き取れるくらいの高さでそう聞こえてすぐに、
唇に、微かに温かい感触を感じた。
ほんの少し触れて
すぐ離れたその感触を確かめたくて目を開けると、
俺の目元を覆う手のひらの指の隙間から、
何かを噛み締めている様な口元と、耳まで真っ赤になっているその顔が見えて、こっちが恥ずかしくなった。
「……ふっ」
「……お前、今鼻で笑ったろ」
「いや、……何これ、昔のドラマか何かであったの?こういうの。」
「人が真面目に言ってんのに……っ、いいから、消毒してやるから…、もう1回座れ…!」
堪えきれずに吹き出した俺に、浅科さんがちょっとたしなめる様にそう言った。
何だこれ、都合のいい夢でも見てんのかな。
目が覚めたら、あの冷たくてホコリ臭い準備室なんじゃないのかな。
ソファが、二人分の重みでまた軋む。
「……確認してみていい?」
救急箱に視線を向けるその横顔にそう言うと、浅科さんと目が合った。
「…え?なに、」
何かを言おうとした唇に、自分の唇を重ねた。
一瞬驚きはした様だったけど、抵抗は全くされなくて、逆に、今度は浅科さんの方から深く口付けられた。
夢じゃないのかな
全部
そう思ったけど、浅科さんの舌先が当たって頬の内側がピリピリ痛んで、
夢じゃない事に気付かされた。
あいつが言ったセリフと、同じ様な事を言う自分がちょっと可笑しかった。
でも不思議と、あのスレスレの境界線みたいな物は、今ここに感じられなかった。
これが正解なのか、不正解なのか、
俺には分からなかった。
「……口ん中、また血の味がしてきた…」
頬の内側から、また鉄の味がしてきて、思わずそうこぼした。
「調子に乗るからだろ。」
「そっちからしてきたんじゃん。」
そう言ったら、浅科さんはぐっと堪えた様に黙って赤い顔をしたまま、俺の肩に勢い良く湿布を貼った。
「…っいって…!」
「手ぇ滑った。」
素っ気なく言うその顔はやっぱり赤いままで、俺はまた吹き出した。
「そういえば、2日くらい会わなかったね。」
「……あぁ、ちょっと隣県に一泊二日で出張行ってて。」
なるほど
それなら朝に会うはずないか。
「…たった二日顔を見てないだけなのに、なんだか妙に気が散って…ポカミスやらかした。」
「…ふーん、」
浅科さんが、湿布のフィルムを剥がしながら、呟く様に言う。
今度は脇腹に、ヒヤリと冷たい感触を感じる。
「…その前の時も、お前が絡まれてた時も、その後に妙に気になって、」
「……へぇ、」
「…だから、色々考えてみたけど……俺もそうなのかもしれない」
「……何が?」
「…聞くか。それを聞き返すか。」
今までの記憶の中に、こういう場面は全く無くて、俺はどう反応していいのか分からなかった。
「俺も、好きなのかもしれない。」
「……あっそ。」
痛い事にしか慣れていない俺は、
たった一言がどうしても言えなくて、素っ気ない風に装って、そう答えるしか出来なかった。
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