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死んだらきっと、自分は地獄に墜ちると思ってた。
だって自分がしている事は多分、そういう事だから。
騒々しい空気の中、その中心に俺はいた。
大きな鳥籠のように編まれた鋼鉄の檻。
それを四方八方から取り囲む群衆の群れ。
異様な熱気に包まれた鳥籠の外からは、多くの罵声が飛んでいる。
「やっちまえ!!」
「殺せ!!」
飛び交う罵声が全て、俺のところへ向う。
...正確には、俺と俺の目の前で項垂れている罪人に。
俺は処刑人で、こいつは罪人で。
それを取り囲むは血に飢えた人々。
お上はそれを表面上は穏やかに、そして本当は軽蔑しきった顔で見つめてる。
そんな様を何も感じずに見れるようになったのはいつだっただろうか。
...覚えてないや。
珍しい事に、いつでもしっかり管理されていた予定が今日は少し遅れていた。
お陰で録でもない事を考える時間ができてしまった。
群衆の穏やかならぬ暴言の数々に、眉をひそめる事もしない俺は何も考えていないような虚無顔をし続ける。
...いや、そういう意味がある訳でもない。ただただここにいる時の俺の気持ちを表しているだけか。
どうせ制服のフードや伸びきった前髪で俺の表情なんて見えないし、そもそも誰も見ようとしない。
この場で大切なのは、俺たち処刑人側からしたら予定時刻にきっかり罪人の首を落とす事だけだし、群衆はその光景さえ見ていればいい。
普通の自分でも優越感に浸れるその一時に喜びを感じれればいいんだ。
罪人からしても、もうここまで事が進んでしまえばどうすることもできないのだから大人しく「その時」を待つしかない。
だから、自分の目的さえ果たされれば何でもいいんだ。
その出来事の裏で何が起きていようと関係ないし、考えたくもないんだろう。
罪人がいつでも群衆に言われるままで、何にも反応しないのは。
俺がどんな罵声を浴びても心に届かないのは。
群衆がいつも一方的な言葉ばかり投げかけて、返答を期待しないのは。
そういうことなんだろうな。
ゴーンゴーンと合図の鐘の音が響き渡る。
俺の横で待機していた仲間が、すっと腕を横に振った。
それを目視してから俺は、仕事道具の大きな大きな鉄鋏を開いて、罪人の首筋へ降ろすと___
シャキン。
群衆の罵声が歓声に変わった。
俺は、飛び散った赤い飛沫を冷めた目で見つめる。
...髪、汚れちゃったな。
制服から少し飛び出ていた横髪に赤い雫が伝って、小さい水溜まりを作っていた。
視線を髪から前にあるものへ移すと、俺は誰に思うでもなく、ポツリと考える。
また、この鳥籠から一つ、自由になった。
俺はまだ、鳥籠の中だ。
これは喜ばしいことなのか、それとも___
周りの群衆に目を向けてみる。
そこには誰もが興奮したような顔をして、こちらを見ていた。
...その目は、どれも生き生きとしていた。
俺は...どうなんだろうか。
去っていく仲間の背中を追いかけ、自らも群衆に背を向けて歩きつつ、考えてみる。
その先に同期の、楽天家の奴がこっちに向けて手をヒラヒラと振っているのが見えた。
その顔を見て、ふと思う。
...ちょっと予定が狂っただけでこんなこと考えるのも馬鹿らしいか。
唐突にやる気が削げて、冷静になった。
そうだ、何を急に哲学思考になってんだ俺。
そこからはいつも通りに何も考えない俺がいた。
うん、やっぱこれが一番しっくりくるな。
アホ面下げてたあいつにシラーっとした視線を投げかけながら、俺は歩く。
何も、考えずに。
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