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夏座敷
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お前は、酷いやつだ。
昔からーー高校で知り合った頃からその片鱗は見え隠れしていた。
通学用の鞄に教科書を入れない。机の中に入れっぱなし、というわけでもない。
「はい、数Bと世界史の教科書、資料集」
「いやぁ、いっつも悪いねー」
クラスが違うのをいいことに毎日俺に教科書をたかりにきた。上っ面だけはよくて、内面はだらしなくて。それなのに俺がとれなかったような高得点を叩き出す。
同じ大学に進学した。関係性は変わらなかった。
「この後のコマ、代返頼むな」
彼は俺のことを何もかも知っているようだった。文句一つ言わずに教科書を貸し続けたのも、同じ学科を選んだのも、代返も、俺が彼に対し従順にならざるを得ない感情を抱いているからだと熟知している。
だからあの日の情事は、彼からの褒美のようなものだったのかもしれない。長年仕えた主からの施し。
“俺のこと好きなんでしょ?”
首輪を引くリードは、彼の手中から外れることはない。何を隠そう、俺の思いが今もなお生き続けているからだ。
本当にお前ってやつは。
「最後いつだっけ? こういうことしたの。学生の頃?」
俺は奥歯を噛み締める。そうしないと余計なことを口走ってしまいそうで。
「……あぁーそうだった、お前は今酒に酔っ払って寝てるんだもんな。その割にはさぁ……ずいぶんと……わり、灯り消すの忘れてた。いい夢見たいもんな」
いい夢、ねぇ。五感全てが冴えた状態で夢だなんて笑わせる。
光源は月明かりだけとなった。蚊取り線香の匂いが強く主張してくる。衣擦れの音。もう浴衣は衣類としての役割は果たしていない。胸元を暴くのは造作もないことだろう。閉じた瞼の暗闇でも、彼の熱い吐息が近づく気配で、次に攻められる箇所が察知できる。体のどこもかしこもーー期待して疼いた。
!!
痛かった。吸い上げるだけでは満足できなかったのか、肌の随所に歯を立てた。これはきっと跡になる。血も滲んでいるかもしれない。無表情を保つのが辛くなり、アイスキャンディで甘さと冷たさを帯びた舌に、口内への侵入を許してしまった。
「心配すんなよ、お前の家族には適当に言っておくし。お前は寝たふりしてな……。起きてから何か言われても、蚊に刺されたって言え」
こいつは蚊取り線香の匂いが分からないのか。何より蚊は歯形なんて残さない。
「俺に惚れるなんてつくづく馬鹿だよね。こことかこんなになっちゃって、どうするつもりなの」
目尻に溜まったものを、熱い指先が奪っていく。しょっぱい、と彼は笑った。
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