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近頃オペラ座は大賑わいを見せている。
着飾った御夫人の多いこと。香水のにおいで鼻がやられそうだ。せっかくの娯楽場所が、嫌な社交場に変わってしまったようで気分がよくない。
今日は朝から最悪だった。
エドガーは今朝のことを思い出し、寄る眉間に指を当てた。
実家から婚約に関する手紙が届いたのだ。最近やっと連絡をしてこなくなったと安心した矢先の出来事である。
エドガーはパリ郊外に城を構えるロベール伯爵家の長男である。長男ゆえ、幼少期から息苦しい生活を強いられた。
だから絶対に実家には戻りたくないし、結婚なんて言語道断である。貴族の娘なんかと結婚したら自由がなくなってしまう。
そうしてためにためた鬱憤を発散させるかのように、家を飛び出し新たに邸宅を構えたのが5年前である。
幼い頃から絵を描くことが好きだったエドガーは、今では自由気ままに画家を名乗っている。
そして、画家活動の活力になっているのがオペラ座のバレエであった。
初めて訪れ観劇した日は一生忘れないであろう。自分とは違う美しい生物を見ているようで、神秘的なものを感じたとともに、高揚感を得たのだ。以来、こうしてオペラ座の会員になり、入り浸るようになった。
今日の演目はバレエである。今日の最悪な気分を救ってくれる唯一のものだ。
バレエはいい。少女たちが可憐に舞う姿は、教会に描かれる天使や女神のようで、この世のものとは思えない。
エドガーの画家活動の大半は、オペラ座のバレエ風景を描くことになっていた。今日も支配人夫人のマダムマリソンにバレエの絵画を持ってきたところだ。
マダムマリソンは、最初にエドガーの画家の才能を買った夫人であった。画家として無名であったエドガーを有名にしたのはマリソンである。彼女のおかげで、エドガーの描く絵画はフランス貴族にとどまらず、他国からも依頼がくるようになったのだ。
だが、エドガーはその大半を断っている。理由は一つであった。「自分が美しいと感じたものしか描かない」からだ。
そもそも、使用人を雇わなければ邸宅で一人遊んで暮らせるだけの個人財産を持ち合わせるエドガーにとって、絵で金儲けをしようとは考えられないことであった。
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