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あれから一ヶ月が過ぎようとしていた。その間エドガーは、雨の日も風の日も毎日オペラ座に通い続けた。
会えない日々が続き、あの出会いは夢だったのかもしれない、と時々考える。が、目覚めると隣には少しくたびれたバラがあり、現実であることを実感するのだ。
そうしてまたオペラ座へ出かける。あんなに熱中していたバレエも、今のエドガーにとっては眺めるだけ、ただの時間つぶしにしかならなかった。この間、画家としての絵は一切描いていない。描けなかった。
「御主人様、ご到着いたしました。」
「…毎日すまない、またいつもの時間に頼む。」
御者に礼を言い、夕暮れになったら迎えにくるよう頼んだ。
少し前までは馬車を呼んでいたが、それも億劫になってしまい、最近は自分の馬車で出かけている。
(今日こそ会えるだろうか)
今日は日曜日だ。あの日も日曜日であったから、いつもより期待している。
豪華すぎる衣服を身にまとった貴族たちを厄介そうに避け、あの日の場所に向かう。そこは馬車の停留所近くであるため、人が密集していて近寄らないと居るかどうかわからない。淡い期待を胸に、人混みを抜けた。
「……!!」
そこに少女は居た。以前会ったときと同じく、大きな帽子を被り、粗末なワンピースを着たバラ売りの少女だ。あの日より帽子を目深く被っているが、間違いない。
エドガーはあまりの嬉しさに、涙が出そうになるのをぐっとこらえた。
「…お久しぶり、マドモアゼル。」
呼吸を整えてから声をかけた。緊張と興奮で鼓動が早くなる。冷静を装いながらではないと、今すぐにでも少女を攫ってしまいそうになっていた。
「あ、あなたは…!」
少女は宝石のように大きな瞳を、これでもかと見開き驚いている。
夕暮れの中では気づかなかった。透明に見えた髪の毛は美しい金色であった。宝石に見えた瞳はもっと脆く、透き通ったクリスタルのようである。
一層輝いて見える瞳。あまりにも大きいので、摘んで食べてしまいたくなる。
「先日はたくさんのチップ、ありがとうございました…!なんてお礼を申し上げていいのやら…」
長い沈黙を破ったのは少女の方であった。少女は言葉とともに、深々と頭を下げた。
「いや、礼を言わなければいけないのは私のほうだ。とても美しいバラであった。ありがとう。」
(前回言えなかったからな。)
お礼を言わずに去ってしまったことを後悔していたのだ。やっと言えて一つ蟠りが解消された。
「そ、そんな…!恐縮です…。…今日も、買ってくださるのでしょうか?でしたら、先日多くいただいてしまったので、お代はいりません!」
少女はカゴいっぱいに入ったバラを取り出しはじめた。
「すまない、バラもいただきたいんだが、今日は別の用で声をかけたんだ。」
「別の用…?」
コロコロと表情を変える子だ。驚いたと思うと、こんどは困惑の表情をみせる。
エドガーは少女に会えぬ間、ずっと考えていたことを切り出した。
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