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「ありがとうございます。あ、バラ…。大切にしてくださり、ありがとうございます。」
「君からもらったものだから。宝物なんだ。萎れても捨てられない。」
だいぶ花びらが落ちて枯れかけているバラ。このバラは少女との出会いのバラだ。萎れているからといって、簡単に捨てられるものではない。
「嬉しいです。実は、ささやかですが今日もバラを持ってきたんです。受け取っていただけますか?」
少女は微笑み目を細め、持ってきたカゴから大輪のバラを取り出した。
「もちろん、ありがとう。このバラは、君のように美しく可憐に咲いているから、見ていて心地いいんだ。」
「お褒めに預かり光栄です。」
エドガーはバラを受け取り、別の花瓶に挿した。
少女は緊張が解けてきたのか、自然と笑みをこぼすようになった。
「今日は、君とゆっくり話がしたかったんだ。不本意だったら申し訳ない。私に付き合ってくれ。」
「不本意だなんてとんでもない!ふつつかですが、お相手させてください。」
「ありがとう。まず、君の名前を聞いてもいいか?」
「え…っと…う、ヴィクトリア、です。ヴィクトリア・モロー、ヴィクトリアと呼びください。」
名前を訪ねた途端少女はたじろいだ。やっと柔らかくなった表情からは、緊迫し焦っている様子が伺える。
「わかった。ヴィクトリア、今日は来てくれてありがとう。」
エドガーはそのことに関して、深く追求はしなかった。
(言いたくないことは誰にだってある。)
「すみません…いいえ、こちらこそ、こんなに素敵なお屋敷にアトリエ、それに紅茶までいただいてしまって…いくら感謝してもしきれません。」
「ヴィクトリアは謝ってばかりだな。可愛らしくていい。そんなに気を使わないでくれ、ここには私とヴィクトリアしかいないんだ。楽にしてくれ。」
「光栄です。ありがとうございます。」
「それでいい。」
エドガーは紅茶を一口飲んだ。口の中にリンゴの酸味が広がり、昔のことを思い出す。
何も考えず、与えられるものを素直に喜び、幸せに暮らしていた時のことである。この紅茶をよく執事が淹れてくれた。
あれから数年後に家を出て、それ以来パタリと飲むのをやめてしまった。
エドガーにとって、こうして天使のような少女と過ごすひとときは、当時のことなど霞んでしまうような濃密な時間だった。
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