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「今日はありがとう。あっという間だった。」
エドガーは組んでいた足をほどき、ソファから立ち上がって言った。
「いいえ!ぼ、私は何もしていません。幸せな時間でした。こちらこそ、ありがとうございました。」
太陽が沈みかけ、美しい緑の森は茜色に染まっていた。昼頃アトリエへやってきたのに、こんなに時間が過ぎていたとは。
気がつけばアトリエ内に昼間の明るさはなく、外と対照的に薄暗くなっていた。
「外が薄暗くなる前に、家まで送ろう。」
「お気持ちは大変嬉しいのですが…乗せていただいたオペラ座前で結構です。」
(万が一他の使用人にバレたら大変!)
ウィルはエドガーに、屋敷の住み込み使用人である、と詳しく話していない。
それに、エドガーの馬車は、そこらの貴族のものとは比べものにならないくらい豪華である。そんな馬車で住み込み先のお屋敷に送られたら、鋭い使用人たちにエドガーの存在がバレてしまう。
「わかった。オペラ座前まで送ろう。」
悟ってくれたのか、エドガーは何も聞かず、「さあ」と手を差し出し屋敷に来た時同様、ウィルをエスコートしてくれた。ロビーまで降りて来ると、「御者を呼んで来る」と残し、ここで待つよう言った。
貧乏な平民であるウィルは、今まで馬車に乗ることはおろか、エスコートされた経験はなく、新鮮でどぎまぎとしてしまう。
だが、エドガーは優しく不慣れなウィルに対し、貴族のマドモワゼルのように扱ってくれた。
その行動一つ一つを思い出しながら待っていると、背中に何やら視線を感じた。あまりにジロジロと見られている気がしたので、そっと辺りを見渡すと、執事やメイドといった使用人がこちらを見ていた。
使用人たちは、ウィルよりうんと年上、中高年のように見える。
こんなに大きくて豪勢な屋敷だ。甚だ場違いにも程がある、と思われているのかもしれない。
そう思うと途端に自分が恥ずかしくなり、誰にも見られないように、身を屈めてしまいたかった。
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