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ロビーには大きなシャンデリア、美しい彫刻が施された柱に、ふかふかの赤い絨毯。あまりにも自分と対照的なものが多すぎる。エドガーだってそうだ、清潔で見目麗しい。
小汚い使用人、ましては性別を偽っている自分とは住む世界が違う。なぜ、今まで不思議と思わなかったのだろうか。
考え始めると止まらない。
気分が落ち込み早くこの場から消えてしまいたかった。
悶々としていると、エドガーが燕尾服に着替え戻って来た。
「待たせてしまった、すまない。行こう。」
「…そんなことありません、帰りも、よろしくお願いいたします。」
(なぜ、優しくしてくれるのだろう…)
エドガーはなぜこんなにも自分に優しいのか、そんなこと今考えている場合ではない、と思いながらもウィルの疑問は尽きない。
屋敷を出て、馬車のところまで歩いている間、ウィルは答えのわからない問いを考えていた。
「……ア、…トリア、ヴィクトリア」
「す、すみません!なんでしょうか…」
ウィルは呼ばれていることに気づかず、ハッと顔を上げると、先を歩いていたエドガーが心配の眼差しでこちらを見ていた。
「大丈夫か?顔色が優れないな。どうした、気分でも悪くしてしまったか?」
エドガーはウィルの頬に触れ、顔を覗き込むように見てきた。
「い、いえっ!そんなこと、ありません。すみません、あの……ぼうっとしていました。」
咄嗟の出来事に驚き、身をたじろいでしまった。
まさか、「なぜ自分に優しくしてくれるのか」と考えていた、と正直に言うわけにもいかず、また嘘を言ってしまった。
「…そうか」
アトリエでもそうであったが、エドガーは何も聞かずただ頷くだけだった。
(また、嘘をついてしまった…、ロベール様のように、清い心で向き合いたいのに…)
「馬車を変えようか。帰りは私が手綱を握ろう。セドリック、キャブリオレを出してくれ。」
「…お気遣い、痛み入ります。」
何かを感じたのだろうか。行きに乗ったものとは違う、豪華な四輪馬車の目前まで来ていたが、エドガーは御者に別の馬車を至急用意するよう伝えた。
「夜には向かないが、まだ二人の時間を楽しみたいんだ。付き合ってくれるか?」
「もちろんです。」
(なんてお優しい方なんだろう…)
しばらくすると、セドリックと呼ばれた御者が二輪馬車でやって来た。
この馬車もかなり豪華ではあるが、先ほどと比べるとシックな馬車である。
「エドガー様、お待たせいたしました。」
「ありがとう、お前は下がっていい」
エドガーは礼を言うと、セドリックを下がらせた。
セドリックは馬車から降りエドガーに一礼した。下がり際にこちらを一瞥したのを見てしまい、ウィルは余計なことをしてしまった、と後悔した。
「ヴィクトリア、足元に気をつけて。」
「はい、ありがとうございます。」
そんなことは露知らず、エドガーはまたしても手を差し出した。
ウィルは、セドリックのことを気にしながらもその手を取り、馬車に乗り込む。隣の御者席にエドガーが次いで乗車した。二人乗りのこの馬車では自然と距離が近くなる。嬉しいような、恥ずかしいような…それと、居た堪れない気持ち。
エドガーの優しさを、素直に受け取れない自分にがっかりする。
今まで、素直に生きてきたつもりなのに、エドガーに対してだけはそれができない。二人の時間を純粋に楽しみたいのに、余計なことを考えてしまう。
ため息がこぼれ落ちそうになった時、馬車はゆっくりと発車し始めた。
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