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何かあったのだろうか、隣に座るエドガーを見上げる。月の逆光で眩しい中、エドガーはこちらに微笑んでいるように見える。目を細め、しっかり捉えようとした矢先だった。
「…かわいい。」
「え……、んっ…」
青い瞳が近づいてきたと思ったら、口づけされていた。
咄嗟の出来事に頭がついていかない。
訳も分からず、エドガーにされるがまま、唇同士をつけたり離したりを繰り返す。啄むような優しくて甘いキス。
「なぜ、自分にキスをしたのか」と疑問が浮かんだが、心地よさと嬉しさが押し勝った。ウィルは、目を閉じそのまま身を委ねた。
エドガーにきつく抱きしめられ、ウィルもそろりとエドガーの背に腕を回す。より密着すると、ほんのりバラの香りがした。
心地よい香りに安心していると、もっと深く口づけされた。ピタリと合わさる唇からは、上手く酸素が取り込めない。呼吸のタイミングがわからない。頭は重くなるばかりだ。
(くるしい…でも、はなれたくない…)
酸欠で動かない頭でぼんやりと考えた。
「…っ?!」
ぬるりとエドガーの舌が唇を割って入ってきた。予期せぬ侵入に思わず体が強張る。
「…すまない、嫌だったか…?」
エドガーはウィルの急な変化に気づいたのだろう。一度体を離し、顔を覗き込まれた。
ウィルはゆっくりと酸素を取り込みながらほんの数秒、エドガーの顔を見つめ返した。逆光にも慣れ、はっきりと表情が読み取れる。
出発する前より、少し乱れた前髪。形のいい唇…美しい瞳からはウィルを心配するものと、不安が見られた。
「あ…い、いえ…嫌ではありません!ごめんなさい、驚いてしまって…寧ろ嬉しい、です…」
本心からだった。「嬉しい」本当に、嬉しかったのだ。
「…ああ、君は、すべてが美しいんだね…」
「そんなこと…」
そっと頬に手が添えられた。
エドガーの青い瞳が愛執を帯び細くなる。
(キス、される…)
受け入れようとウィルも目を瞑り、再び甘い口づけを待っている時だった。
「クィーン…」
ドキドキと緊迫した空気を打破したのは、馬車に繋がれている美しい黒い馬だった。
エドガーとウィルは馬の鳴き声に驚き、互いに身を離した。
「はは…、アンジュに怒られてしまったようだね。」
「いいえ!ああ、アンジュと言うのですね、とても美しいお馬だと思っていました!」
動揺し、つい早口に離してしまった。
(ああ、びっくりした…!)
エドガーはそんなウィルとは違い、落ち着いた様子でアンジュを見つめた。
「アンジュは私の良き理解者なんだ。君も、仲良くなってくれたら嬉しいよ。」
「はい、光栄です。」
アンジュは退屈そうにしているが、走り出す気配はない。
(ご主人様を待ってるんだ…なんて賢いお馬なんだろう。)
「アンジュが早くしろって言っている。春といっても夜は少し冷えるだろう。出発しようか。」
「はい。」
エドガーは再び手綱を握り、馬車はゆっくりと発車した。
ウィルはその姿を見つめ、幸せを感じていた。
(僕はロベール様が、好き。)
貴族と平民。身分違いなことはわかっている。叶わぬ恋であることも。
ウィルは考えることをやめた。
そんなこと、いつだって考えられる。この穏やかな時くらい、幸せを感じたって神様は咎めないだろう。
季節は春。
暖かな日中とは違い、やはり夜は冷え込みそうだ。
ウィルは火照った頬に少し冷えた指先をくっつけた。
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