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「…いかがですか?」
「……。」
まただ。ウィルはそう思い、心の内でため息をこぼした。
エドガーの絵のモデルを務めて早数ヶ月が経ち、汗ばむ季節になっていた。彼はまた、何か悩んでいるらしい。
「また」というのも、最近のエドガーはよく筆が止まっているのだ。悩める姿もたいそう美しいが、悩みの種を打ち明けてくれたらいいのに。いつも優しいエドガー。恋する人の役に立ちたいと思うのは、だれもが同じであろう。
だが、こうなってしまったら、しばらく返答が得られない。エドガーが自分の世界から戻ってくるのを待つだけだ。
今日のパリは頗る陽気がいい。天気は快晴。風も穏やかで、庭で過ごす絶好の日和だ。ここは木陰になっているから尚更良い。
今日は新調したズロースを履いてきた。ズロースは男のウィルには必要ないものだが、「ヴィクトリア」でいるときは必要なものだ。
エドガーは毎回多額の報酬を払ってくれる。もちろん何度も、受け取れない、と伝えているが、押されて結局受け取ってしまっていた。
そのお金の大半は実家に入れているが、少し頂いていた分が貯まったので、それで買ったものだ。
新調したから何かある、という訳ではない。ただ、エドガーが悩んでいる一因は自分にあるのではないか、と思ったからだ。
エドガーの絵は美しい。
アトリエに飾ってあるものは、どれもオペラ座の踊り子を描いたものである。舞台やリハーサル室で踊る少女たち。白いチュチュから覗くしなやかな脚は、ウィルには無いものだ。骨と皮しかない貧相な脚は、絵の中の踊り子には到底及ばない。
エドガーはオペラ座のパトロンだろう。踊り子を間近で見ることも、リハーサル室に入ることも、パトロンだからできるのだろう。きっと、誰か「個人のパトロン」ではないはずだ。
というのも、描かれた踊り子には一つ共通点があった。それは、どれも顔を識別できないことだ。衣装や背景、人物の動きはよく描かれているが、顔がぼんやりとして、誰だかわからない。これも芸術の一つなのかもしれないが、ウィルは少しほっとしてしまった。好きな人の描く女性は、なんだか見たくない。
ズロースがどうとなるわけではないが、少しでも踊り子に近づけたら何か変わる気がして、履いてきたのだ。
(それにしても、ロベール様の悩みってなんだろう…)
かれこれ一時間は筆が止まっているエドガーを見て、ウィルはもやもやとした気持ちで一杯になっていた。
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