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静かに返される瞳が、揺らめいていた。
あ、・・・好きかも。
瞳を覗き込まれて、胸がドキンと高鳴った。
「外科部長から結婚しろって言われるんだけど、俺、結婚向いてないんだよね。」
「え、なんでですか?」
高鳴る胸が、狂わせたのかもしれない。
アルコールの入っていないビールの香りに、騙されたのかもしれない。
だから、思わず言ってしまった。
「俺、男が好きなんだ。」
やべ。
嫌われたかもしれない。
性的マイノリティについては、諸刃の刃となる。
距離を置かれるのは勘弁して欲しかった。
後悔の念と共に、念押しした。
「あ、これ、内緒な。・・・だから結婚できないし、子どもも作れない。」
だけど、もし甲斐くんと共に笑い合えたら、それだけで幸せになれそうな気がする。
「とはいえ、この仕事だと どこか出逢いに行くことも出来ない。」
グラスについた汗が、つっ・・・と流れ落ちた。
いえ。
言うんだ。
ここまできたら、話してしまえ。
「でも良いんだ。気になる子が毎日医局に来てくれるから。」
甲斐くん。
甲斐くん。
「そ、その・・・。」
甲斐くんの視線が彷徨い出した。
・・・だめか。
山野は俯くと、ため息を噛み殺した。
注文の多い料理店に、甲斐くんは入らずに玄関から窺っているタイプだろう。
ふと、冷静になった。
そうそういるわけがないのだ、両想いなんて都市伝説に違いなかった。
寂しさに駆られながら、山野は財布を取り出した。
「そろそろ出るか。」
「は、はい。」
促して、外に出た。
まだ8月の暑い空気が肺を焼いていく。
「あ、あの、ご馳走さまでした。」
「いや、付き合ってくれてありがとう。」
この食事が、最後かもしれない。
そう覚悟を決めて、甲斐くんの頭を撫でた。
柔らかい細い髪の毛は、指通りも滑らかだ。
甲斐くんのシャンプーの匂いが漂って、名残惜しくなった。
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