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「で、戸町さんは?」
「お見舞い客がいらして、しばらく興奮されていましたが、今は落ち着いています。」
「そう。」
翌朝、病院に顔を出したついでに、昨日手術をした患者の顔を見て回った。
戸町さんは、ついでのひとりだ。
「縫合の様子だけ見ておこうかな。」
「はい、昨日は出血されていましたから。」
看護師と話しながら病室に入ると、大人しく本を読んでいた。
「・・・へぇ、好きなの?」
「はい、こういう節約メニューとか見るの好きです。」
雑誌を脇に置いて、戸町さんは俺を見上げた。
「先生は自炊しなさそうですね。」
「正解。医者こそ食生活が乱れてるからね。」
とはいえ、研修医ほどじゃねーけど。
研修医のときは、ただ何か食えればよかった。
「良かったら、お店来てください。たこ焼きバーしているんです。」
「へぇ。」
甲斐くん、喜ぶかな。
「傷口を確認するよ。」
戸町さんには可哀想だが、しばらく固形物は与えられない。
点滴で栄養素は補填するが、飢えに苦しむだろう。
「おしっこは出てる?」
「はい。でも、行くのがシンドイです。」
「でも、行かなきゃ漏らすからな。歩くことも治療だよ。」
傷口は、綺麗だ。
清潔なものに取り替えて、病室を出た。
「あ、山野先生!」
「ごめん、今日非番。」
廊下で看護師に声を掛けられた。
「あー、じゃあ、これだけ持って帰ってください。」
お菓子の山を渡された。
「どうしたの?」
「産休中の湯沢さんが持ってきてくれたんです。」
「へえ、ありがとー。」
甲斐くん、好きかな。
白衣のポケットに突っ込んで、医局へ戻った。
土曜日の病院も、騒がしい。
さてと。
甲斐くんは起きてるかな。
携帯を取り出して、交換したばかりのIDへメッセージを送った。
『イイ子で待っててね。お昼ご飯、買って帰るから。』
『はい!気をつけて帰ってきてくださいね。』
ああ、幸せだ。
手に入らないと思っていた甲斐くんと、付き合い出したのだ。
『好きだよ。』
『おれもです。』
これから、お互いのことを少しずつ知っていこう。
そして、たくさん笑い合って生きていきたい。
山野は幸せを噛みしめながら、ポケットの中のお菓子を鞄に入れたのだった。
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