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転校
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まさか受験を目前に転校することになるなんて、誰が思いますか?
「うそだろ!? あと一年で卒業できるのに! ……ていうか気が早いけどこの前皆で卒業旅行行く約束しちゃったよ! どうすんのこれ!」
「ごめんね。私もこの家は気に入ってるし、できれば引っ越したくないんだけど……お父さんの転勤が決まっちゃったから」
学校が終わって家に帰るなり、母から大事な話があると言われた。しかしその内容はショッキングなもので、八年近く過ごしたこの街を離れ、遠い県外に引越しをする、という。
今の高校だってそれなりに勉強して入ったのに……もうショックで美味いものしか喉を通らない。
あ~……つら……。
そりゃあ高校三年なんて進路のことばかりで青春する暇ないだろうけど。だからこそ、貴重な一年なんじゃないか。気の置けない友人と悩みを共有するから、不安な未来に向かっていけるんじゃないか。それが突然知らない人、知らない学校の中に放り投げられるなんて……担任が冷たかったら即死パターンだ。
「来月の頭には引っ越す予定だから」と言われたら、自分ではどうすることもできない。在学中で経済力ゼロの子どもに権限などない。深いため息をついてソファにスライディング転倒すると、見兼ねた母が眉を下げて言った。
「元気出して。きっと向こうでも友達できるわよ。それにね、引越し先は御香山町よ。覚えてるでしょ? アンタが小学……ええと、四年生までいたところよ」
「え、ほんと?」
「そう。前に住んでたところとはちょっと離れてるけど、最寄り駅は一緒だし懐かしくなるんじゃないかしら」
ほうほう、なるほど。未知の街へ行くよりは、都会の田舎と呼ぶべきあの故郷の方が親しみやすい。親父も考えるじゃないか……。
ただ、仲の良い友人達と別れることは本当に悲しかった。
後日、転校すると言った時の皆の顔も忘れられない。普通に泣いてくれる奴もいたから、俺もええいいいあああともらい泣きしそうになった。
だけどそんな悲しみも色褪せるほど引越し作業は大変で、あっという間に一ヶ月が経ち、俺は幼い頃に過ごした都会の田舎へ移った。
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