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転居
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引越しを経験したのは初めてじゃない。むしろ幼少期は父の仕事の事情で転々としていた。昔は海外勤務が多かった為、俺はアメリカで生まれて三歳までワシントンで過ごした(でも友達に生まれどこ? って訊かれてアメリカと答えるとジョークと思われ肩パンされる理不尽)。
それはさておいて、八年前の俺は本当に子どもだった。いかに引越しの手伝いをせず遊び呆けていたのか痛感した……。
めっ……ちゃくっちゃ大変じゃねーか!
疲れる!! 片付けても片付けてもなくならない荷物! 増えるダンボール! 部屋を埋め尽くすゴミ袋! よく分からない虫の死骸!
親父は仕事だから肉体労働は全部俺がやった。願わくばもう二度と引越したくないと思った。
長く過ごした街を離れる時は夕焼けが眩しくて目が痛かった。特徴がないのが特徴……俺みたいな街だった。
学年主任から説明を聞いてみると授業の進み具合も偏差値も違うし。一応編入試験は受かったけど、不安しかない。マジで不安。
「マジで不安って顔してるわね。大丈夫よ、アンタ誰とでもすぐ仲良くなれることだけが取り柄じゃない」
転校初日の朝、ソワソワして天井のシミを数えていると見兼ねた母が牛乳を持ってやってきた。
「昔友達だった子が入学してると良いわねぇ」
「居たとしてもお互い覚えてないよ。俺、昔の記憶が端っこから消えてってるもん」
まだ違和感のある制服を着て家を出た。燦々と大地を照りつける太陽。坂の上にある家の為、遠くに山の稜線が見える。
行きは良いけど、坂を登らなきゃいけないから帰りが地獄なんだよなぁ。
ぷりぷりしながら電車に乗り、二つ隣の駅に下りた。そこから徒歩七分がこれから通う共学の高校だ。
運動部系が結構強いらしいんだけど、元写真部の僕には何の関係もございません。
担任は定年間近そうな、優しいおじいちゃん先生だった。こんな時期に転校で不安だろう、分からないことがあれば何でも訊いてきなさい、と肩を叩いてくれた。そこはマジでホッとして有難かった。
……でも俺は決めたんだ。この学校では、今までとは違う仮面を被る。
「……望佑昴(まどかたすく)です。……宜しくお願いします……」
わざとぼそぼそ喋って、根暗そうな奴を演出した。良いんだ。俺はここでは誰とも関わらない。誰にも心を開かない。ナイフのような心を持って一匹狼を演じよう。
と思ったのには実は訳がある。編入前に軽く学校を案内された時、俺がいる教室で何か良くないものを見てしまったんだ。
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