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追走
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いじめじゃなかったこと自体は心からホッとしてる。この学校に来てから今までで一番嬉しい。でもそれ以上に虚しく、恥ずかしくて泣きたいほどだった。
それなりに深い理由で頑張っていたつもりだったのに、子どもプールぐらい浅い理由になってしまった。
「望が陰キャを演じてたのは東間の為……なの? 優しいね、相変わらず」
目の前の影が濃くなる。と同時に、光義に抱き寄せられた。
ずっと昔も、こんな風にあやされたことがある。大丈夫だよ、って優しく頭を撫でてくれる存在がいた。
「……お前もじゃん」
光義の背中に手を回し、セーターを握り締める。
悔しいけど、彼が本当は優しいこと……思い出してしまった。
────俺だよ、望。大丈夫だから鍵開けて。
可愛らしいノックと、聞き慣れた声。唯一安心して扉を開けられる存在。
涙で頬をぬらしながら顔を覗かせた。トイレまで迎えに来てくれた彼は、やっぱりいつもと同じで優しく笑っていた。
「みつぎ……」
昔は彼の漢字が難しくて、ぶっちゃけ覚える気もなかった。ただ俺は絢斗よりも響きが気に入ったから、名字で呼んでいた。光義も同じで、佑昴ではなく俺を望と呼んだ。
「どうしよう……ちょっと、汚しちゃった」
「大丈夫だよ。拭いてあげる」
普段は静かで前に出たがらない光義が、俺のことになると人目もかまわずすっ飛んできてくれる。それが密かに嬉しかった。幼稚園児ならともかく、小学校に入ってからも彼に甘える自分はどうかと思ったけど。
もうちょっと大きくなったら、俺が彼を守りたいと思ったんだ。でもそれは叶わなくて、まだ連絡手段も持っていなかった頃だから……引越ししてから完全に関係を切ってしまった。俺は最低だ。
光義は俺を恨んでいるんだろうか。訊きたいけど、怖くて訊けない。彼の胸にうずめた顔を上げられずにいると、小さな吐息と共に弱々しい呟きが聞こえた。
「良かった……やっぱり、望だ」
体重をかけられ、背中に壁が当たる。それほど身長差はないのだけど、全身を委ねられると受け止めるのが大変だった。
「そりゃ俺だよ。何なん?」
「変わっちゃったのかと思った。小学校以来だし……もう俺が知ってる望はいないんじゃないか、って。思ったら、何か怖くなった」
ぎゅう、と服を掴む手に力が入る。
光義でも……俺のことで怖い、と思ったりするんだ。
申し訳ないけど、何か嬉しかった。恐怖や不安を感じるということは、それだけ真剣に自分と向き合ってくれていた証拠だ。
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