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閑話:山地優征という男3〜モブ視点〜
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山地は教室の王だと思う。
いや、学校の、と言っても差し支えは無い。
みんなが山地に気に入られようと必死になって、山地の言ったことが法になる。教師ですら、だ。
完全なる絶対王政だろう。
山地はみんなが望む言葉を発し、望む姿を与え、望む行動をとる。
完璧な、王だ。
でも俺は知ってしまった。
高校生らしい笑み、言葉遣い。
山地が王の皮を被ったただの高校生なのだと。
そんなことはよく考えれば当たり前と言えば当たり前だが、俺たちはどこか山地はただの高校生ではないと思っていたのだ。
******************
世の中がバレンタインで盛り上がりつつあるとある日の放課後、俺は所謂破局現場というのを目にした。
「山地君、今までありがとう。」
清楚系で可愛いと評判の彼女が、山地に別れを切り出していた。
「そっか、こちらこそありがとう。で、どうしていきなり別れようって思ったの?」
山地は別れを切り出されたにも関わらず、いつも通りの笑みで質問を繰り出す。
彼女はゆっくりと首を横に振る。
「………いきなりじゃないよ。山地君の1番になりたくて、ずっと頑張ってたけど、もう疲れちゃったんだ………」
俺も誰かにこんな事言われたい………
「君が1番だって感じなかった?」
「ないよ、山地君って、ずっと誰かのこと考えてるもん。」
「そうかな?」
2人のやり取りを交わす姿はまるでよくできたドラマのようだ。
それにしても、山地が誰かの事をずっと考えているだなんて、女の勘ってすごいな。
本当に、山地はそんなことを?
「みんなに誠実に対応してるように見えてずっと上の空だし、私とデートしてる時だって何かを思い出したように笑うじゃない。」
彼女の声に怒りがこもってくる。
「キスしてる時も、エッチしてる時も、私を通して誰かを見てる。」
エッチしてるんだ、そりゃ高校生だししてるよなあ。
清楚系と言われる彼女が、山地と。
聞いた話によると山地はかなり上手いらしい。
山地は彼女をどんな風に抱くのだろう、あのすました優男の顔が獣のようになるのだろうか。
それとも、そんな時でもあの顔?
「…………………」
山地は困ったように笑って、彼女の言葉に応えずに黙っていた。
「ねえ、誰のこと、考えてるの?」
彼女が山地に詰め寄る。
「…………………」
山地は質問に答えない。
「どうして?最後にそのくらい教えてくれたっていいじゃない!!」
彼女はついに痺れを切らしたのか声を荒らげた。
山地は、はーーっと溜息を漏らして、
「聞いたって何にもならないでしょ。言う必要を感じないな。そんな仲でもないし。」
と冷たく言い放った。
山地の顔は今まで見たことが無いくらい表情がなく、まるでゴミを見るかのような目をしていた。
彼女はしばらく黙りこくって、
「何それ………初めから私のことなんて好きじゃないじゃない!!嘘つき!!」
山地を罵倒した。
「………………?」
山地は本当にわからないといった顔をする。
「俺の1番はもういるけどいい?って聞いたら、いいって言ったのは君じゃなかった?俺は嘘なんて言ってないよね?」
「そうだけど…それでもヒドいよ…」
あまりにそっけない山地に、なんだか少し彼女が気の毒になってきた。
「俺は君のこと、少しも好きだと思ったことはないよ。もしも期待させてたならごめん。」
う、わ、
無表情でそんなことを言うなんて。
ごめんとは言っているものの口先だけだとすぐわかってしまうじゃないか。
「ヒドい…………ッ!!!サイテー!!!この顔だけ野郎!ヤリチン!!」
清楚系なはずの彼女から暴言が飛び出す。
彼女は暴言を吐くだけ吐いて走り去っていった。
ふぅ、と山地が溜息をついてこちらへ向かってくる。
ヤバい、見つかる!!!
逃げようと慌てて立つと、山地に名前を呼ばれた。
身体が固まる。
「覗き見なんて趣味が悪いな」
にこりと微笑まれて、全身から汗が噴き出す。
「や、山地………」
一体、いつから、気付いて……
「なに?」
その笑みが、今の俺には恐ろしい。
でも、聞きたいこと、色々ある。頑張れ俺。
「彼女と別れる時って…いつもこんななの?」
口から出たのはそんな問い。
俺が聞きたいことの一つではあったけど、一番ではない。
「そうだよ、向こうから告白してきたのに、しばらくすると別れようって言われるんだ。なんでだろうね。」
わかってるくせに。自分の好きな人のことしか考えてないからだって。
「………………」
俺は何も言えなかった。
「彼女たちは俺のことが好きだって言ったのに、俺と付き合って幸せになれなかったんだね。」
何だか、山地の顔が、寂しそうに見えた。
付き合っても、本当に好き同士じゃなかったら満たされないってことか………と山地は呟いてまた溜息をついた。
「喋りすぎた、またね。」
ひらひらと手を振って去っていく山地の後ろ姿を見て、俺はーーーーー…………
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