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——岸大地——
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練習試合当日に八島の姿は見当たらない。先週から部活に来なくなったのだ。
原因は言わずもがな、岸であった。
高崎先生の引率で枇杷中学まで移動している。
(俺のせい……だよね)
今日のスターティングメンバーを移動直前に知らされたが、岸の名前は呼ばれなかった。
父兄の車内ということで、話に盛り上がる部員を差し置いて、頭を抱える。
「岸。考えてもしゃぁねぇことだぞ、それ」多田が背中を強く叩く。
「だって、勧誘したの俺だよ……初心者なのにいろいろ背負わせる羽目になってさ。何度も倒れて、頑張って——」
「罪悪感が増したか」
「……」
「でも、八島はお前に特訓の申込みしてなかったか?」
「ほら、ちょうど1週間くらい前にさ」首を傾げて多田はいう。それには心当たりしかない。
「多分、顧問からも頑張れ的なこと言われてんだよ。だから、倒れてもちゃんと部活来るし、途中から真面目に取り組みだした。で、それを踏みにじるようなことを言わなけりゃ、八島自身の問題だから、考えても仕方ねぇよ」
「……多田ぁ……」
後部座席の一番奥で、岸が項垂れるのを多田は苦笑しながら、「俺、一応お前からレギュラー奪った身なのになぁ。最初から負けた気がしないのは、これのせいだな」と背中をバシバシと叩いて来る。
「聞いてやるから」
「ありがとうぅー」
岸はあの日八島に言われたこと、岸自身それにどう返答したか、その結果どうなったかまで全てを吐露した。
一通り吐ききったところで、多田の開口一番は「うん! お前が悪い!」だった。
一切の曇りもない多田を見る限り、冗談ではないらしい。ぱっかりと開いた口が塞がらないが、暗澹たる空が若干の晴れ間を見せたようだ。
「俺、何かまずいこと言ってた??」
「そう、ソレ!! 鈍感だから尚更言いにくかったんだろうなー」
「え??」
「岸は言葉が足らな過ぎるんだよ。主語が、とかじゃなくて。自分の本意を察してくれるものとして喋ってる。お前のココはお前しか知らない」
拳で岸の胸を押す。さしずめ、心臓であり、「心」だ。
「お前の本意は、八島には伝わってない。だから、八島はきっと岸に辞めろとストレートに言われた、て勘違いしてるぞ」
「違うんだろ?」覗き込む多田は優しい。
「うん。俺の強い勧誘で、渋々入部してくれたのに、部内悪化に繋がってしまったし、責任は俺がとるよって意味で言ったんだよ。文句を言わせる奴は俺が許さないんだけど、辛いならやめてしまうのも一つの選択だし」
「……はぁ。八島をやたら気に掛けるなぁとは思ってたけど、お墨付きというよりは保護者的な目線だったんだな」
「そりゃメキメキと上達してるのを近くで見られて、すごく頼もしく思ったよ!!」
「お、おう。なんか神々しいまであるな。キラキラさせんな、ちょっと落ち着けって」
多田は再度頭を抱えていった。「こんな奴にレギュラー取られた方が悔しいかもしれん……なんだこの岸のオカン感は」。
「でも、まだ間に合うと思うぞ」
話を戻されて、明らかにしゅんとする。
「なんだかんだ岸の助言を素直に聞いてる八島を見てると、アイツもちゃんと岸が言葉足らずな奴だって分かってるかもしれないんだよなぁ。だからさ!」
にか、と笑って見せる多田は「今度学校で探し出して、説明しろ。んで、仲良くしとけ、親子供!」といった。
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